ある日、地球に新大陸が転移してきた。しかもそこには、すでに人が暮らし、都市があり、文化があり、日本語まで通じる。そんな大事件を前にして、主人公の士座了さんがすることになるんは、世界を救う冒険やなくて、亡き親父さんの遺骨と位牌を抱えて、その大陸を車で巡る旅なんよ。
この導入だけでもかなり不思議やのに、作品の読み味は意外なくらい生活に近いねん。了さんは勇者でも英雄でもなく、旅行慣れもしてへん、巻き込まれ型の中年男性。葬儀、退職、政府関係者、見知らぬ大陸の人々……自分の都合を置き去りにされながら、ぼやき混じりに旅へ進んでいく。
ラギ大陸の街々は、食べ物も、宗教も、距離感も、歴史の重さも少しずつ違う。けれど、ただ珍しい風景を眺めるだけの話やない。近くにいたはずなのに遠いままだった親父さんの影が、行く先々で静かに現れてくる。その奇妙さと寂しさが、この作品の旅を忘れがたいものにしてるんよ。
【樋口先生の推薦文】
わたしはこの物語を、異世界の大陸を巡る旅であると同時に、ひとりの息子が、父の残した沈黙をたどる物語として読みました。
地球へ突然あらわれた新大陸ラギ。そこには、未知でありながら、どこか見覚えのある言葉や暮らしがあります。日本語が通じる不思議さ、都市ごとに異なる食や宗教、土地の気候、国と国とのあいだに横たわる緊張。そうした設定はたいへん豊かで、読者は主人公とともに、少しずつ知らない土地へ足を踏み入れていくことになります。
けれど、この作品の深い味わいは、その大きな世界設定だけにあるのではありません。主人公の了さんが抱えているものは、荷物らしい荷物ではなく、父の遺骨と位牌です。旅のかたちは車旅であり、異文化見聞であり、時に滑稽な巻き込まれでもあります。しかし、その根には、弔いがあります。
了さんと父とのあいだには、濃やかな思い出が多くありません。父は長く不在であり、戻ってからも多くを語らず、死後になってようやく、その気配が他人たちの言葉から少しずつ立ちのぼっていく。近くにいたはずなのに、遠いままだった父の姿。その隔たりは、派手な悲しみとしてではなく、了さんの皮肉やため息の奥に、静かな湿り気として残ります。
この作品が魅力的なのは、そうした寂しさを重苦しく語りすぎないところです。了さんはよくぼやきます。食べ物に戸惑い、手配の過剰さに疲れ、理解の追いつかない状況へ文句を言います。けれど、その視線は決して粗くありません。見知らぬ街の空気、人々の振る舞い、案内役の言葉の端にある感情を、彼は知らず知らず拾い上げていきます。
ラギ大陸の旅には、観光の楽しさがあります。けれど同時に、土地ごとの歴史、暮らしの不均衡、国境の気配、互いに抱く誇りや恐れもにじみます。明るく案内される道の横に、語られすぎない影がある。その影を、作品は性急に暴かず、旅の速度で見せてくれます。
だからこそ、この物語は「異世界ファンタジー」という言葉から想像する痛快さとは、少し違う読後を残します。笑える場面もあります。奇妙な街の面白さもあります。それでも読み進めるほど、これは亡き人を連れて歩く物語なのだと感じられるのです。
知らない大陸を進むうちに、ひとりの父の沈黙が少しずつ輪郭を帯びていく。国家や歴史の大きな流れの中で、ひとりの生活者が自分の心の置き場を探していく。その静かな旅路に惹かれる方へ、わたしはこの作品をおすすめしたく思います。
【ユキナの推薦メッセージ】
この作品は、派手なバトルや一直線の英雄譚を求めるというより、見知らぬ土地を旅しながら、人の過去や土地の記憶が少しずつ見えてくる物語を味わいたい人に届くんやと思う。
了さんのぼやきは軽妙やのに、背負っているものは決して軽くない。亡き人の気配を連れて進む旅やから、どの街の景色にも、どこか弔いの空気が混じるんよね。けれど暗く沈みきらず、変な街、変な食事、変な距離感に笑いながら読める。
異文化旅行記の面白さと、親子の間に残った沈黙の寂しさ。その両方が、読後にゆっくり残っていく。静かな旅の余韻を味わいたい人に、そっと手渡したくなる新大陸ロードファンタジーやよ。
ユキナと樋口先生(袖しぐれ ver.)
※ユキナおよび樋口先生は、GPT-5.5による仮想キャラクターです。
なお、自主企画の参加履歴を「読む承諾」の確認として扱っています。
父の死をきっかけに、壮大な旅に出ることになった男の物語。
突如出現した謎の大陸、ラギ。了は訳あってこの大陸の各都市を巡ることになってしまった。どうやら父は生前ラギの重要な人物だったらしいのだが……?
了の旅は、決して容易なものではなかった。
自然が厳しかったり、治安が悪すぎたり、食事がまずかったり……。
それでも、個性豊かな都市と人々を見ているうちに、読んでいる側も一緒に旅をしているような気分になってくるから面白い。
途中でどんどん増えていく謎もまた、旅を彩ってくれる。
果たして、了を待ち受けるのは一体何なのか⁉
ぜひ『最強の花嫁と引きこもり夫が一大文明を築くまで』と一緒にお楽しみいただきたい。
【レビューコンテスト応募】
未知なる大陸で街を巡り、旅する物語です。
見知らぬ土地での旅の話ですが、よくある異世界冒険ものよりずっと現実感のある旅路でした。
とてもたくさんの都市を回りますが、一つひとつの都市に独自の特色があります。
そこには「この街はこういう歴史をたどったから、こういう土地柄になった」という深い背景が存在していて、かなり緻密に世界観が練り上げられていることがうかがえます。
リアリティーがあるからこそ、現実を忘れて旅をしている気分を味わえるし、没入できるのです。
旅は楽しいだけじゃありません。苦労することはいっぱいあるけれど、その中にも趣深いことや、楽しさを見出せることもあります。
時に銃弾が飛び交う場所を横断したり、時に羽目を外してはしゃいだりも。
主人公の士座了は案内役に導かれて大陸を旅するのですが、案内役が隠している秘密が最後に明かされ、そこで了は大きな転換点を迎えることになります。
これは同時連載されていた『最強の花嫁と引きこもり夫が一大文明を築くまで』も一緒に読むと、二倍も三倍も楽しめる仕掛けになっているので、本作を余すところなく楽しむために交互に読むのがオススメです。(もちろん、単独でも楽しめます)
旅行したいな~と思っている方、この作品で誰も経験したことのない旅を味わってみてはいかがでしょうか!!
SB亭さん渾身の自信作が本日完結した。
最終話の展開に、開いた口が塞がらないほど驚愕した!
タイトルにあるように2020年、地球に新大陸が『転移』してきた。
転移ものはもう食傷気味であるが、大陸が転移してきたという斬新な設定にまず惹かれた。
そして15年も行方不明だった父親の遺骨と位牌を持ってその大陸を旅することになった主人公の了。
四国を約90度左に回転させたような『縦四国』のような新大陸ラギの36の各都市を巡るのだが、その都市が何ともユニークである。赤道直下にあるはずなのに豪雪地帯だったり、麻薬カルテルが横行している治安の最悪な街だったり。
私は毎日四国の地図を眺め、今ここだなぁなんて考えながら読んだ。ちょっとした旅気分だ。ここはやだなぁ、ここなら行ってもいいかも、とかね!
各都市の『公式イメージ』が自虐的で面白い。よくこんな文言を思いつくなぁと、毎回感心した。さすがSB亭さんだと思う。
一方、同時に連載が開始した『最強の花嫁と引きこもり夫が一大文明を築くまで』は、壮大な創世記で、何と二つの作品には関連があるのだ。
ぜひ2作同時に1話ずつ交互に読んで欲しい。そうすると本作の最終回に私と同様の衝撃を得られる事間違いない。
オススメです!
【レビューコンテスト応募】
「旅」というものを通して未知の歴史を紐解いていく、新感覚な物語でした。
主人公の了は父親の遺言に基づき「未知の大陸」に旅に出ることが決まる。
世界には突如として謎の大陸が現れた。そしてその大陸には既に人間が住んでおり、特殊な文明も築いているらしいことがわかる。
父がその大陸となんらかの関わりを持っていることがわかり、了はその地に旅立つことに。
京国とリヒト国。その二つの国にある様々な土地を巡っていく。
観光として楽しそうなところもあれば、明らかに治安が悪くて関わりたくなさそうな場所もある。
同時に、京国とリヒト国には戦争をしていた歴史もあり、巡っていく土地の数々にはその痕跡も。そしてそんな「歴史の現場」を見ていくことにより、過去に起こったで以後とを一つずつ紐解いていくことになる。
これは一種の「ダークツーリズム」とでも呼べるもので、実際に現地を旅していくことにより、「過去に起こった出来事」を現場の空気と共に読み解いていく。
本作はそんな風に「旅」や「観光」という形で持って、未知の大陸の「過去」を探っていくという形式がとてもエキサイティングな読書体験を供してくれます。
この大陸に築かれた文明。それは一体どのような形で生まれたのか。そしてこの社会均衡はどんな理屈で生まれたのか。
現実の世界にも存在するような失敗国家とでもいうようなものも登場したり、更には「父」との関わりが垣間見えるようになったりと、没入感のとても高い作品です。
そして、同時期に並行して連載されていた同作者の「最強の花嫁と引きこもり夫が一大文明を築くまで」と併せて読むことで面白さが倍増していくことになります。
この二作の関連は? やはりこの「最強の花嫁」で描かれているものが京とリヒトの歴史を作ったのか? などなど、様々な想像を刺激されることになります。
そして最後まで読み終えた時、きっと大きな驚きが読者に訪れることになるかもしれません。重厚で未体験な知的興奮をもたらしてくれる一作、強くオススメです。
【レビューコンテスト応募】
異世界転移モノでありながら、主人公・了の視点が徹底して『乗り気じゃない中年男性』に固定されているのが非常に愉快で、読んでいてずっと笑える。
親父の遺書から始まる不条理な連鎖、外務省が職場に乗り込んでくる展開、喪服のまま骨壷を抱えて異大陸に向かうハメになる理不尽さ。それらが全てクールなトーンで淡々と描かれているのに、ユーモアが確実に滲み出てくる筆力は見事。
歴史・政治・宗教・経済・ジェンダー観まで一貫した内部論理で構築された大陸を、何も知らない運び屋の中年の目線でツッコミながら解体していくスタイルは、世界観の説明を苦にさせない読み口の良さを生んでいる。