第13話
垂直シャフトに渡された、錆びついた鉄製のはしごを降りるたび、下層特有の重苦しい熱気と湿度が下から這い上がってきた。
エリンは一歩降りるごとに、上層の無菌室のような環境では決して味わうことのなかった、複合的な『悪臭』の波に直面していた。
長年放置され、熱で変性した工業用タンパク質脂質の焦げた匂い。過密居住区から漏れ出す排泄物とカビの混ざり合った酸っぱい刺激臭。それは彼女の肺胞を容赦なく刺激し、喉の奥を痙攣させた。
「う……っ、げほっ、ごほっ!」
エリンは思わず口元を片手で押さえ、はしごの途中で激しく咳き込んだ。
生々しい現実が、臭気という名の物理的な質量を持って彼女の全身にへばりついていく。純白だった彼女の制服の裾は、すでに垂直シャフトの壁面にこびりついた黒いオイルと煤を吸い、見る影もなく汚れきっていた。
「圧を下げろと言ったはずだ。引き返すなら、まだコリオリの力はそちらに向いている」
下方から、カイの抑揚のない低い声が響く。
彼はエリンの苦痛を心配するでもなく、ただ物理的な事実を報告するように告げた。その目線ははしごのさらに先、光の届かないジャンクの暗がりをじっと見据えている。
「だ、誰が引き返すなんて……言ったのよ。私の計算には……逃亡の選択肢は、存在しないわ」
エリンは涙目でえずき、荒い呼吸を繰り返しながらも、その瞳の奥にあるギラギラとした光を失ってはいなかった。
むしろ、その不快感が彼女の好奇心をさらに鋭く研ぎ澄ましているようだった。上層の冷え切った、物理の現実から目を背けた生活。それに比べれば、この喉を焼くような悪臭すらも、彼女にとっては「船が生きている」という強烈な論理の実証に他ならなかった。
はしごを降りきった先は、太い高圧蒸気配管が血管のように這い回る、船の『腸』のような暗い空間だった。
ウンディーネの不気味な脈動音が、壁を震わせ、彼女の足の裏から直接脳髄へと響く。
カイは迷路のような配管の隙間をすり抜け、一枚のへこんだアルタイル・カーボンの装甲板をスライドさせた。彼の個人的なアジト、あるいはスクラップの集積場だ。
部屋の内部は、異様なまでのメカニカルな混沌に満ちていた。
天井からは配線の束がクラゲの触手のように垂れ下がり、床には分解されたVウェルダー(真空溶接機)のコンデンサや、規格外の巨大なボルト、そして何の目的で作られたのかもわからない自作の工学的ガジェットがうず高く積まれている。部屋の隅には、ガルドが生存確認の儀式に使うような重い工具が乱雑に置かれていた。
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