第22話




「まあそういうわけで、私の条件は満たせています。あとはクリスさんですが、初心者の条件が基礎レベル25未満、もしくはゲーム内プレイ時間200時間未満が条件なので、初心者の条件も満たせていると思います」


「200時間どころか、2時間くらいちゃうかな」



 その他の条件としてはフレンド登録していることと、お互いがメンターのお助けシステムを利用する設定にするだけ。このメンターお助けシステムの利用設定は、フレンドごとの個別設定ができるようにもなっているので、栗栖はディナンに教えられるままに設定を変えた。



「ですが、問題もあります」


「はい」


「ひとつは、私よりも対戦相手NPCが強い場合。その場合は助っ人に入ってもどうしようもありません」


「それはそう」



 ディナンより強いとなれば、もう栗栖にはどうしようもないだろうし、諦めも付く。その場合は潔く、フゲン老人に試験変更を頼み込むしかない。もちろん頼んでも断られるだろうが、言うだけタダなので、栗栖は言うだろう。



「もうひとつは、戦闘開始後、五分以上経過しないとメンターの呼び出しはできないことです」


「え」


「なので、クリスさんは五分間、なんとか闘技場の中で生き延びなければいけません」


「……詰んでるやん?」


「大丈夫です。クリスさんには酔拳があります」


「酔拳あるっちゅううても、限度があるやろ。レベル差とか、あとTPも」


「できるだけ酔拳の発動を遅らせてください。あと、食べるや飲むの動作は、メニュー画面のコマンドで実行できるので、視界内にショートカットを作っておくといいです」



 ディナンはその他、戦闘の細々としたコツやテクニック、便利な移動方法などを教えてくれたが、栗栖にはとてもではないが覚えきれなかった。このゲームの戦闘が非常に奥深いことだけは理解できた。



「大丈夫です、クリスさん。たとえ負けてデスしたところで、おそらくもう一度やり直せます。この場で暗転して目覚めるだけです」


「せ、せやな! まずは戦ってみんとな!」



 ディナンから多すぎるほど多いの助言やコツを教えられた後、栗栖はとりあえず闘技場の運営席へと向かった。そこにはウィングカラーのシャツと蝶ネクタイ、ベストとスラックス姿のNPCが数名おり、何か帳簿のようなものを書きつけたり、コインのやりとりをしていた。



「すいません、あの真ん中で戦うやつに参加したいんやけど」


「ん? ああ、君がフゲンさんの言ってた子ね。参加は自己責任だよ。武器と魔法の使用は禁止だ。持ちコインは……百十万かい。勝ったときの報奨コインは相手によって変わるけど、全コインが必要だ。参加するかい?」



 どうやら参加できるらしい。話の内容から考えるに、NPCが参加した場合は負ければ奴隷になってしまうのだろうが、プレイヤーはそうでもないようだ。奴隷という状態異常があるのかもしれないが、今のところ特に説明されなかったので、栗栖は気にせずに全コインをNPCに渡して参加した。


 ドーム型のフェンスに囲まれた中、周囲の歓声と眩しいほどのライトを浴びる。アウトローなNPCたちの歓声や怒号が大きくなるにつれ、栗栖の鼓動は次第に大きくなった。耳の上で脈打つような感覚になり、何度目かの、VRってすごい……を体験していれば、更に大きなどよめきが起きる。



「本日の飛び入り参加者はァ! なんと大仙人フゲンが後見する期待のルーキー! クリス・スナメリ!!」



 本名……!本名……! と栗栖は一瞬慌てたが、すぐに落ち着いた。アイコンをざっと見たところ、このホールには栗栖とディナン以外のプレイヤーはいなかった。ならばもう構うまい。



「そして対戦相手はこの男! 無敗を誇る紺碧の勇者! プルルフカーーー!!!」


「え」


「先ほどぶりだなクリスよ! まさかこの格闘訓練場でも会うとはな!」


「……」



 艷やかな鮫肌のイケメン半魚人、プルルフカが円形闘技場へと入ってきた。何も着けていない上半身の筋肉を盛り上げ、マッチョポーズをしながら話し掛けてくる。



「……格闘訓練場にしてはアングラすぎひん? 大丈夫?」


「む? アングラとは? 人間は皆、鍛錬をする時は地下でおこなうのだろう? 往来の人に見られないようにするために。なかなかシャイな種族だと微笑ましく思ったものだ。服も何枚も着ているしな!」



 シャイとは? と栗栖は疑問に思ったが、口には出さなかった。栗栖は鍛錬を地下でおこなう文化を知らないが、もしかしたらゲーム内では常識だったり、もしくはこの街では常識なのかもしれない、と考えたからだ。

 それに相手がプルルフカなら、なんとかなる気がした。少なくともディナンに教えてもらった、ほぼ付け焼き刃でとても本番でできそうにもない色々な攻撃回避のための対策よりは、栗栖に向いた戦法が使えると思った。



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