この作品は、青年同士の距離が少しずつ近づいていく関係性の中に、記憶と想いの儚さを丁寧に織り込んだ物語だと思います。
序盤は、怪我をした修一郎を鳴実が介助するという、少し特殊ながらも日常的な場面から始まります。清拭や食事、本の貸し借りといった何気ないやり取りを通して、二人の距離が自然に縮まっていく流れが印象的でした。
特に心に残ったのは、修一郎が自分の記憶を《氷》にたとえて語る場面です。人が体験や出会いをどう覚えていくのか、そしてそれが少しずつ溶けていく感覚を、静かで美しい比喩として表現しているところに、この作品ならではの個性を感じました。
単なるBL的な関係性を描いた作品ではなく、誰かを大切に思うことと、その記憶を失いたくないという切実さが重なっている点に深みがあります。
穏やかな会話の中に、後から効いてくる不安や切なさが丁寧に置かれていて、読み進めるほど二人の関係を見守りたくなる作品です。静かな余韻のある物語を読みたい方に合う作品だと思います。