第13話 方向性


「ご馳走さんと」


 スサノオは両手を合わせ、足元に転がる無数の骨に視線を送る。元々はオオカミ型の魔獣であり、死体をセンスで丸焼きにし、内臓も一つ残さず綺麗に平らげていた。食事の間は特に会話もなく、各々は背筋をピンとさせ、直立不動の状態で食べ終えるのを待っていた。


 余った肉を食べるか勧められたけど、全員が断った。理由を語ることはなかったけど、神だし、初対面だし、彼が仕留めた獲物だし、周りのこともよく分からないし、気を抜けるような状況じゃない……と言ったところかな。


 緊張した面持ちでスサノオの食事姿を見つめるような形になり、カグラにいたっては両手を合わせて、有難そうに拝んでいるような素振りも見せていた。


「……さて、腹ごしらえも済んだ。とっとと先に進むぞ」


 立ち上がったスサノオは、早速ながら水先案内人としての役目を全うしようとしている。彼の案内に従えば、ナロト攻略は最前線までショートカットできるだろう。リーチェとも足並みを揃えることができ、完全にイーブンな状態で最奥の攻略に挑戦することが可能となるはずだ。


「お断りします。俺は俺のペースで攻略したい」


 ただ、気に食わないものは気に食わない。相手が神だろうが、悪魔だろうが、自分の意見を捻じ曲げていい理由にはならなかった。


「お、おめぇ!! 神須佐能袁命カムスサノヲノミコト様に向かってなんて口を!!!」


 不遜な態度に真っ先に反応したのはカグラだった。神道に精通しているのか、聞き馴染みのないスサノオの異名を口にして、叱りつけている。他二人も似たようなことを思っていたのか、冷ややかな視線を向けられているのが分かった。前もって説明していたら反発されなかっただろうけど、嫌なものを嫌だと言って何が悪い。これで関係に亀裂が入ろうと個人的には構わなかった。


「別に言葉遣いを咎めるつまりはねぇよ。そもそも、コイツの半分は神のようなものだしな。……それよか、気になるのは理由だ。そこまで明確に拒否するからには、ちゃんとした意図があるんだろ?」


 少なくとも、神からのお咎めはなかったようだ。適当な理由を述べればさすがに怒るんだろうけど、当然のことながら回答は用意している。


「一言で言えば、経験則ですね。近道するより遠回りした方が結果的に上手くいったことが多かったので、今回も楽しない道を選びたいと思ってます。必要とあらば具体的なエピソードも説明できますけど、聞きますか?」


「長話は結構だが、短くまとめられるなら聞きたいね」


「イギリスで行われた王位継承戦は、恐らくここと似たようなダンジョンでした。我先にと攻略を急いだ人も結構いたんですけど、そういう人から先に死んでいったり、負傷退場したりしました。結果的に俺は遠回りしたことでダンジョンのギミックを攻略し、本来討伐不可能な大ボスを倒すことが可能になったわけです。付け加えるなら、リーチェさんがナロトを攻略できずにいるのも恐らく理由があり、今回も例に漏れず、遠回りすることが攻略の鍵になると思ったから……ですね」


 ジェノは理路整然と聞かれたことに対して、素直な意見を述べる。最初から好意的だったスサノオはともかくとして、周りの冷ややかな視線が少しだけ和らいだように感じる。どういう反応をされるか分からないけど、もしかしたら、身内を納得させることが狙いだったのかもしれないな。


「そこまで説明できるんなら、俺様は一向に構わねぇ。近道だろうが遠回りだろうが好きにしろ。最前線までは面倒見てやるよ。異論があるなら聞いてやるが、コイツの下した判断に文句のあるヤツはいるか? ……いるわけねぇよな。満場一致で決まりだ。こっからはオマエが仕切れよ」


 スサノオは話をまとめ、ジェノに視線を送る。各々は口を閉ざしており、暗黙の了解と判断してもよさそうだった。ここからは良い意味でも悪い意味でも自由だ。


「恩に着ます。いざ行動に移す前に、胃の詳細について聞いてもいいですか?」


「ま、妥当な質問だな。遠回りするならここの情報は欠かせない。新参者のオマエらよりは詳しいだろうが、あくまでパパッと攻略した印象を話すことになるが、それで構わねぇか?」


「ええ、お願いします」


 ◇◇◇


 スサノオの説明が終わる。ザックリとまとめると要点は二つであり、胃の構造と風土に関することだった。


「ここまでの意見をまとめると、胃にはバイカルヴェイから流れてきたゴミや産業廃棄物を資材にして第二の都市が築かれており、センスの攻防は起爆するので基本的にはNGってことでいいんですか?」


「あぁ、そんなところだ。真の意味で腕っぷしが物を言う無法地帯。憲兵のような真っ当な組織はなく、覚醒都市に比べれば天と地ほども文明に格差がある荒廃した世界だ。魔獣もうろちょろしてるし、電気なんて便利な代物もねぇし、一時間眠るだけでも一苦労。さらに、手癖でセンスを使ったやつはドカン。危うく俺様も間抜けな野郎共の仲間入りを果たすところだった」


 スサノオの口から語られるのは、体験談を踏まえた血の通った報告。想像以上の厳しい環境の上に成り立っている場所みたいで、彼らが足早に攻略を進めようとした理由が全て詰まっている。先に進めば快適になる保証はないけど、ここに長居したくないのは何となく分かる。


「荒廃都市バイカルヴォイド……とも呼ばれていますね。噂は耳にしていたのですが、想像以上の地獄のようです」


 一連の説明を受け、ロザリアはそれに紐づく地名を付け加えた。ただ、スサノオ以上に知っているわけでもないようで、初見のようなリアクションを見せている。


「遠回りするのはいいが、寄り道する余地はあんのか?」


「ほんとそれ。観光目的で立ち寄ったわけじゃないんだし、目ぼしい場所がなければ、先に進むべきだと思う」


 一方、カグラとソーニャは、話を聞いた上で遠回りに否定的な反応を見せていた。言っていることは分かる。彼らは王位継承戦を経験したわけじゃないし、上手くいく保証がないならここは素通りしたいんだろう。遠回りを強要するなら、早いうちに不満を解消しておかないときっとどこかで爆発する。


「それも一理あるけど、最低でも一か所は回っておきたい。覚醒都市でいう大図書館や本部のような場所が存在するなら、寄ってみる価値はあると思うんだ」


「まぁ、確かに」


「一か所ぐらいなら……いいか」


 ひとまずは納得していただけたようだけど、まだ気は抜けない。一か所に絞ったとしてもどこへ行けばいいか全く目星は立っておらず、無計画に近い状態。


「ここはスサノオさん頼りになるんですけど、立ち寄る価値がありそうな場所に心当たりってあったりします?」


 ジェノは遠慮なく、ナロト体内にそれなりの知見があるスサノオに話を振った。何もなければその辺をザックリ回って終わりになるだろうけど……。


「おすすめはしねぇが、一見の価値があるのは暗黒闘技場だな。人間同士じゃなく、魔獣同士を闘わせるイベントが日夜行われている。ちょうど、参加資格のある魔獣はテイム済みのようだし、まぁ、悪くはねぇんじゃねぇか」


「……それだ!!」

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