南方軍管区からの定例書簡と中央の反応
【編纂局注】中央――聖教府とその民が聖剣抜剣について諸論を交わしている頃、南方の状況は、中央の議論とは別の速度で進行していた。
本資料は、その旨を記した定例報告書の写し、並びに当該報告書に対する処理と見られる書類の複写、ほぼ同日の民衆反応を示す瓦版の写しである。
***
発:南方軍管区総司令部
宛:聖教軍中央総司令部
大犬の月一日・定例報告書
魔領域における霧量の増大、および剣呑なるざわめき、既に一月を超えて連続観測。
また先月より増えたる斥候の未帰還、未連絡、さらに増大せり。斥候隊は、さらなる深部調査を拒否する旨を当司令部に報告せり。
境界区域長城の士気は未だ意気軒昂なれど、戦線対応配備状態は既に半月に至る。
危急時への対応に、一抹の不安を残す。
なお、未帰還斥候の携行標識三点、境界内側にて発見。
いずれも規定に従い破棄された形跡なし。
当方、中央軍に重ねて要請す。南方警戒人員の増加、あるいは短期間の斥候軍派遣承認を求む。
***
【中央総司令部受領記録】
本書簡、大犬の月四日受領。
南方軍管区よりの定例報告として、軍務局第三書架へ収蔵。
同日、聖教府より第八勇者候補選定に関する追加照会あり。
これに伴い、南方方面よりの増援要請および警戒態勢継続、斥候軍派遣提案に関する協議は、十日に行われる次回軍務評議へ持ち越しとされた。
***
【聖都四方山瓦版】
聖剣抜剣を巡る真偽混交の情報が、未だ聖都をざわめかせている。大通りでは祈りの護符めいて候補者氏名を記した木札紙札の類が飛ぶように売られ、茶店では夜半に至るまで候補者論議が絶えぬという。
また表向きには誰もが口をつぐむが、裏通りでは「誰が聖剣を抜くか」で賭博が行われており、相当過熱しているなどとも聞く。今回得するは札屋と賭博の胴元か。もっとも札屋については、日々新たな店立てを見る有様である。
一方、聖教府ではこれらの風潮を「戒律の形骸化」として危険視しており、過日、再度戒めの布告を発した。ただし候補者選定評議は一向に進まず、なお日数を要する見込みという。
また【抜剣の儀】についても予定を変更する想定はないとのこと。理由については、「候補者を慎重に見極めるため」としていた。
***
【編纂局注】
本書簡が軍務評議の正式議題として記録されるのは、これより十二日後である。
その間にも、南方軍管区からの報告は複数回にわたり追加されていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます