第9話 余り物のペア(4)

 入学式が終わる頃には、外の空気はすっかり夕方の色に染まり始めていた。


 体育館の扉が開かれると、新入生たちが一斉に廊下へ流れ出していく。


 ざわめき。笑い声。自己紹介。既に打ち解け始めているペアも多い。


「ねぇ、寮ってどんな感じなんだろ」


「クラスごとに違うらしいぞ」


「マジ?」


 そんな会話を横目に、俺は人混みの最後尾をぼんやり歩いていた。


(人、多すぎだろ……)


 入学初日とは思えない熱量だった。普通もっと疲れてるものじゃないのか。


 その時。


「ねぇ、東雲君」


 一瞬、骨の髄まで冷えきる程の寒気がし、後ろを振り向く。


 すると。水瀬が腕を組みながら、ちょっと来い、と言わんばかりの顔で俺を見つめる。


 俺は、ハァーと溜め息をつきつつも、水瀬についていく。


 水瀬について行くと、人気のない体育館裏に着く。


(まさか、ここで俺を殺すきじゃないよな?)


 そんな物騒なことを考えていると、水瀬はポケットから何かを取り出すと同時に、それを俺の胸元に突き立てた。


(あ...俺の学校生活終わりか...)


 俺は自分が刺されたと思っていたが、水瀬が取り出したのは刃物ではなく、スマートフォンだった。


 俺は全身から一気に力が抜け、その場にへたり込む。


「何をそんなに安心しているのかしら」


「いや..俺はてっきりナイフで刺しに来るのかと...ほら、お前なら殺りかねないだろ?」


 あっ、やべ。つい口が滑ってしまった。


「成る程。東雲君は私が殺人鬼に見えるということね。確かに、つい殺してしまいそうだわ」


 水瀬は小型の錆びたハサミを取り出した。


「その錆は一体何なのでしょうかねー」


 まさか本当に人を切り刻んだんじゃないよな...。


「冗談はこのくらいにしておきましょうか」


 水瀬は小型のハサミをポケットにしまい込んで、本題にとりかかる。


「お前が言うと冗談じゃなくなる...」


 常にハサミ持ち歩いてる奴が言うと冗談の意味が違ってくる。


「それで。あなた、疑問を抱かないの?」


「疑問...何のだ?」


 水瀬は小さく溜め息をつく。


「呆れる。クラスの評価しかないでしょ?あなた、選抜試験で正しい答えを出したのに。どうしてB判定になるのかしら...」


 まぁ、確かに。俺も実際、もう少し高いのかと思っていたが。俺は別にどうでも良いが。


「妥当な判断じゃないか?俺は答えが正しかったが、それまでの行いのせいだろうな」


「行い...ペアに試験を丸投げした。その挙げ句、ペアを騙して、自分だけ正しい答えを提出...。言葉にすると随分なクズね」


 クズって...あくまで俺の作戦はルールには違反してないんだぞ。もう少しオブラートに包んでくれたって良いだろ。


「多分、学校側は結果だけでなく、それまでの行いまで評価基準に入れられている」


「成る程、それは理解したわ。それで、どうするつもり?」


「どうするって?」


 水瀬はまたもや溜め息をつく。本当に俺に呆れているみたいだな。


「クラスでの事よ。あなたはどうみる?」


「おそらく。ペアだけでなく、今後はクラスでの団体戦もやらされるだろうな。クラスで仲良い奴を作っておいても損はしないだろうな」


 水瀬は腕を組んで考え始める。


「確かに...ペアで組ませたのに、寮やクラスがあるのは、おかしいわね。まるで、クラスで友達を作れと言っているような」


「そうだ。だから俺達は少しでもクラスに溶け込む必要がある」


 クラスの利用価値は高いのだろうな。こういう事はザ・エリートの水瀬に任せるのが良いだろうな。


「そろそろ教室に言った方がいいと思うぞ」


 スマホには一件のメールが送られている。そのメールの内容は、教室に集合しろ、というものだった。


「そうね。じゃあ、これからペアとしてよろしくね。絶対に裏切るんじゃないわよ」


「どうかな?それはお前の利用価値次第だ」


 


「ちょっと、早く歩きなさいよ」


 人気の少なくなった廊下を俺はゆっくりと歩いていると、前から水瀬の冷たい声が飛んでくる。


「別に急ぐ理由ないだろ」


「クラス移動で迷いたくないの」


「その時はその時だ」


「絶対あんた方向音痴でしょ」


「……否定はしない」


「否定しなさいよ」


 と他愛のない会話をしつつ、俺達は1年Bクラスの教室に向かう。


 後に、4回の左端の教室。室名札には1年B クラスと書かれている。


 ここが俺の教室であり、鳥籠だ。


 さて、どんな奴らがいるのだろうか。


 




 


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