見世物小屋で働く素朴な少年・甚吉が、人の言葉を話す海怪に馬鹿にされながらも日常の謎を解いていく――
主人公・甚吉は純粋で真面目で人が好くて、しかして生き方がどうにも下手くそで損ばかりしてしまう。それが何とも応援したくなる魅力になる存在です。
一方の海怪は、口悪く罵ったり対価を要求したりするものの、マル先生として甚吉を導いていく頼れる存在で、ちょっと食いしん坊なところも御愛嬌です。
当時の活気ある江戸の町、そこで一生懸命に生きる甚吉が、憂世の冷たさや人情味の温かさを味わいながら、海怪マル先生と小さな謎を解いて世間を少しずつ知っていく。少しずつ成長しながら、いつまでも純粋で真っ直ぐな気性の甚吉にほっと心が温まる作品でした。
.『海怪』は、江戸・両国の見世物小屋を舞台に、海獣マル公と小僧・甚吉の交流を描いた連作短編。人情あり、ファンタジーあり、ときにはミステリ仕立ての物語です。
キャラクターがとても良く、不器用だけれど心優しい甚吉、彼が憧れる真砂太夫、稲荷の神使・穂武良、そして『海怪』と呼ばれる謎だらけだけれど可愛らしいマル公。それぞれの息遣いが聞こえてくるようです。
人間顔負けの賢さと愛嬌を持ちながら、江戸っ子気質(熱海から来たらしいですが…)で毒舌なマル公がとにかく魅力的。
真砂太夫に憧れる甚吉の様子や、穂武良とマル公の軽妙な掛け合いが、私は特に好きです。
マル公の正体って何?! それは徐々に明らかになりますが、謎解きだけでなく、江戸の文化や人々の暮らしを味わえるところこそ、この作品の醍醐味だと思います。
読みやすい文章に、丁寧で正確な資料考証。読後感もよく、江戸もの、人情もの、ファンタジーがお好きな方におすすめしたい作品です。
江戸は両国橋の見世物小屋を舞台にした、コミカルでテンポのよい連作短編です。
主人公の甚吉が見世物小屋で世話をする、世にもめずらしい「海のばけもの」は、今ではみんな知っている大人気のあの動物。江戸時代の人々も今と同じように、流行りの動物をこぞって見物しに来るわけですが、このばけもの、実はなかなかの曲者で……
見世物小屋というちょっと特殊な世界で繰り広げられる軽快な人情噺。粋な江戸風俗がふんだんに盛り込まれていて、細やかな時代考証とともに甚吉たちの日常にリアリティを与えています。その中で展開する不思議でシュールなエピソードはまるで落語を聴いているような楽しさでいっぱい。
個性的な脇役たちとのやりとりも打てば響く気持ちよさ。
生け簀からしぶきが飛ぶような景気のよい江戸弁も切れ味抜群。
さあ、世にも面白いばけものに会いに来ませんか。ぜひ読んでらっしゃい見てらっしゃい。