果実を齧る描写がとても鮮烈で、甘み、香り、果汁のぬめり、噛み潰して飲み込む感覚まで伝わってきます。禁断の果実でありながら非常に官能的で、冒頭から五感に訴えてくる描写に強く引き込まれました。
この果実は、聖書的な禁忌がもともと孕んでいる欲望や誘惑を、より生々しく身体的に描いたものなのかもしれません。ただ欲すること、ただ生きようとすることまで罪に見えてしまうような感覚があり、その背後にある断罪の視線がとても怖い。
何を罪とするのか、誰がそれを決めるのか。人が作り出した正義や罪の定義が、自然な欲望や生きる力まで内側から侵していくようでした。
「果蝕」というタイトルも、果実の甘美さと罪悪感に心が蝕まれていく感覚が重なっていて秀逸です。短い中に、美しくも苦い余韻が残る作品でした。