第21話
翌朝。
教室へ入った瞬間、空気がざわついた。
「来た……」
「今日も囲まれるのかな」
「最近ずっと攻略対象と一緒だよね、あの人……」
やめて。
聞こえてる。
俺はなるべく気配を消しながら席へ向かう。
だが。
「おはよう、悠真」
「おはようございます!」
即座に左右から声。
セシルとひまりだった。
逃げ場がない。
「……おはよう」
「眠そう」
セシルがじっと顔を覗き込んでくる。
「昨日遅かった?」
「まあちょっと……」
攻略対象たちが深夜まで部屋にいたせいで。
とは言えない。
ひまりは嬉しそうに笑う。
「珍しいですね、悠真さん寝不足」
「最近ちょっと色々あって」
「僕たちのせい」
セシルがさらっと言った。
認めるな。
するとその時。
「――へぇ?」
嫌な声がした。
教室後方。
東雲梓先輩がいつの間にかいた。
「朝から両手に花とはやるわねぇ、悠真くん」
「なんでいるんですか」
「取材」
絶対違う。
梓先輩はにやにやしながら近づいてくる。
「しかも昨日、王太子殿下たちと夜遅くまで一緒だったらしいじゃない?」
ぶっ。
「なんで知ってるんですか!?」
「新聞部を舐めないで」
怖い。
この人ほんと怖い。
周囲のクラスメイトたちもざわつき始める。
「え、マジ?」
「王太子と!?」
「何それ……」
終わった。
俺の静かな学園生活、完全終了である。
「梓先輩」
セシルが不機嫌そうに口を開く。
「変な噂流さないで」
「えー? でも事実でしょ?」
「言い方の問題」
「否定はしないんだ」
梓先輩が吹き出す。
するとひまりが、おずおずと手を挙げた。
「あの……皆さん本当に仲良しですよね」
その瞬間。
教室の空気が妙に静かになった。
「仲良し」
セシルがぽつりと復唱する。
「……そう見える?」
「はい!」
ひまりは満面の笑みだった。
「だって皆さん、悠真さんいる時すごく楽しそうですし!」
どくり、と空気が揺れる。
周囲の生徒たちまで「確かに……」みたいな顔になっていた。
「前まで王太子殿下とか、生徒会長さんってもっと近寄りがたい感じだったのに」
ひまりは続ける。
「最近、すごく柔らかい雰囲気ですよね」
「……」
「全部、悠真さんといる時だけ」
その言葉で。
教室中の視線が俺へ集まった。
やめて。
そんな注目しないで。
「……本当、不思議」
梓先輩が面白そうに笑う。
「学園トップ層の空気変えちゃうんだもんねぇ」
「変えてませんよ」
「変わってる」
セシル即答。
「悠真来てから、楽になったし」
さらっと言うな。
クラスがざわつく。
「えっ」
「セシル様があんなこと言うの初めて聞いた……」
さらに。
「僕も同意かな」
いつの間にか教室へ来ていたルシアンが微笑んだ。
女子たちが悲鳴を上げる。
「王太子殿下!?」
「なんで普通に教室いるの!?」
最近よく来てるからです。
……いや、それもどうなんだ。
「悠真、おはよう」
「おはようございます……」
「疲れてる顔してるね」
ルシアンは自然な動作で俺の髪へ触れた。
「ちゃんと寝た?」
教室が凍る。
俺も凍った。
「で、殿下?」
「ん?」
「距離が近いです」
「そう?」
そうです。
だが。
「……触った」
セシルの声が低い。
「あ」
ルシアンが固まる。
「無意識だった」
「アウト」
空気がピリつく。
待て待て待て。
教室で何してるんだこの人たち。
「お、落ち着いてください!」
俺が慌てて止めに入ると。
「悠真はどっちの味方?」
セシル。
「え?」
「僕?」
「いや喧嘩しないで!?」
するとルシアンが苦笑した。
「ごめんごめん。つい」
「つい、で頭撫でるのやめて」
セシルが完全に拗ねている。
ひまりはその様子を見て、なぜか感動したように呟いた。
「青春だ……」
「どこが!?」
「皆さん、悠真さんのこと大好きなんですねぇ」
純粋な笑顔。
そして。
教室中が、静かに頷いていた。
……否定する空気は、もうどこにもなかった。
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