3分読み切りショートショート集
治癒学生
ショート1 チートデー
今日は、“チートデー”だ。
心の中でつぶやいて、台所から包丁を取り出す。
丹念に研いで、早速準備をしはじめた。
あとは、準備を整えるだけ。
「さて、誰にしよう」
選ぶ時間は私にとって、一番の楽しみである。
「今回は、これにしよう」
そう虚空に呼びかけ、開いていた画面を静かに閉じる。
ピンポーン
しばらくすると、インターホンが鳴った。
手配を済ませてもらい、扉を閉めた後、目の前の相手をまじまじと見る。
その視線を受けたからか、相手は怯えたように顔をこわばらせた。
「あぁ、名前。あなた、名前は」
聞く必要もなかったが、気が落ち着かないようで、気がついたら、聞いていた。
「松井です。松井、健三」
松井は心なしかほっとしたような表情になった。
その顔を見て、私は迷いなく腹に包丁を振り翳した。
鈍い感触が、掌に残った。何かが崩れる感覚だけ、やけに鮮明だった。
今回も、あっけなく終わってしまった。
名残惜しさがないわけではない。
しかし、この至福のひとときを私はずっと待ち望んでいたのだ。
その夜、私は半年ぶりにテレビをつけた。
「次のニュースです。本日はチートデー法施行から二度目のチートデーでした。今回の献身者は……」
アナウンサーは次々と名前を読み上げていく。
「……松井健三、39歳……」
松井の名前が読み上げられる。特別なことは何もなく、他の人たちの名前に埋もれていく。
「……さて、施行されて二度目を迎えた“チートデー”。今回は想定を大きく上回る献身者が確認されました。本制度は、個人の攻撃衝動を合法的に排出する仕組みとして機能すると共に、潜在的な犯罪の抑止にも寄与しています」
名前を読み終えたアナウンサーが、コメントを残す。
「政府によりますと、次回の“チートデー”は死刑囚以外の対象拡大も検討されている、とのことです」
私はリモコンを置き、次の半年を思った。
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