ある日、人類の上位存在によってこの世界の歴史から『バット・アンド・ボール・ゲーム』という概念が消されてしまう。ボールをバットで叩くスポーツ、つまり野球やクリケットなどの存在が根本から抹消されたわけである。
しかし、野球とは人類の歴史から切っても切れないスポーツ。野球が消えた世界でも人類はすぐにボールを棒で叩く遊びに目覚めていく。この後再び野球が産声を上げられるのかを、上位存在の視点から観察するのが本作品だ。
サッカーなどに較べて野球のルールはなかなかに複雑である。しかし、本作では一人の変わり者が、子供たちが棒で玉を叩く様子を見つけて、この遊びをどうすればスポーツとして成立させられるか、真剣にシミュレーションしていく。
この考察の内容がとても興味深く、これまでのスポーツの型に囚われないものはないか、どのような駆け引きの要素があればスポーツとして成立するのかなどと、ゼロから新しいルールを組み立てようとする様子は読んでいて実に新鮮。果たして彼の思考は本当に野球の再発明へと辿りつくことができるのか?
身近な野球の概念をあえて解体し、当たり前だと思っていたルールを新たな視点から見つめ直させてくれる、非常にユニークな思考実験的SFだ。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎憲)