最初は、313歳のお嬢様と、彼女の静寂をことごとく打ち破る問題児たちのやり取りに笑っていました。
「今日もまた始まった(笑)」と、紅譜魔華邸の騒がしい日常を気軽に覗いているつもりだったのです。
けれど、読み進めるうちに気づきました。
序盤でたっぷり笑わせてもらった時間は、ただの寄り道ではなかったのだと。
誰がどんなことで怒るのか。
誰を大切にしているのか。
普段はふざけている人が、どんな時に真剣になるのか。
強がっている人が、本当は何を怖がっているのか。
そうしたものを、笑いながら少しずつ知っていたからこそ、物語に別の表情が見え始めた時、その一言、その選択、その優しさがきちんと心に届くのだと思います。
しかも、雰囲気が変わっても、この作品らしい可笑しさまで消えてしまうわけではありません。
笑って、心配して、また笑う。
その繰り返しの中で、いつの間にか「面白い登場人物たち」だったはずのみんなが、「この人たちには幸せでいてほしい」と思う存在になっていました。
短編コメディ集として一話ずつ楽しめるのに、読み重ねた時間そのものが、ちゃんと人物への愛着になって返ってくる作品です。
紅譜魔華邸の扉を開けるなら、ぜひ少し長めに滞在してみてください。
きっと最初に想像していたより、ずっとこの館の住人たちが好きになっていると思います。