12話「Sランクを超えた日──俺たちは“格”を証明する」

 ギルドの空気が、一変していた。


 ざわめきは消え、代わりに張り詰めた静寂が広がる。


「……やるのか、本当に」


 誰かが呟く。


「相手はSランクだぞ……」



「場所を変えましょう」


 赤髪の女が言った。


「ここじゃ壊れる」


「同感だ」


 俺は頷く。



 ギルド裏手の訓練場。


 広く、障害物の少ない空間。


 戦うにはちょうどいい。


「……準備はいい?」


 女が剣を構える。


「いつでも」


 俺は軽く答えた。


 ナギが隣で小さく息を吐く。


「……大丈夫?」


「大丈夫だ」


 即答する。


「勝てる」



「……言うじゃない」


 女が笑う。


「じゃあ見せてみなさい」


 次の瞬間。


 ――消えた。



「速い!」


 ナギが目を見開く。


 気配すら消すレベルの踏み込み。


 さすがSランク。


「左だ」


 俺が言う。


「……っ!」


 ナギが反応する。


 ギィン!!


 間一髪で受け止める。



「へぇ……」


 女の目が細くなる。


「見えてるのね」


「まあな」


 俺は肩をすくめる。


「全部じゃないけどな」



 再び動く。


 今度は連撃。


 速い。重い。無駄がない。


「……くっ!」


 ナギが押される。


 当然だ。


 まだ覚醒したばかり。


 正面からじゃ勝てない。



「だから“正面からやらない”」


 俺は小さく言う。


「ナギ、武器に付与」


「……何を?」


「“切れない”を付けろ」


「……え?」


「いいからやれ」



 迷いは一瞬。


「……やる」


 ナギが剣に触れる。


 淡い光。



「無駄よ」


 女が踏み込む。


 渾身の一撃。


 だが――


 ガキィン!!


 音が変わった。


「……っ!?」


 女の目が見開かれる。


「刃が……通らない?」



「今度はこっちだ」


 俺が言う。


「“重さ”」


「……うん!」


 ナギが即座に付与。


 次の瞬間。


 女の体がわずかに沈む。


「っ……!」



「そのまま押せ」


 ナギが前に出る。


 ドンッ!!


 女が数歩、後退した。



「……なるほど」


 女が静かに笑う。


「面白いじゃない」


 だが次の瞬間。


 空気が変わる。


「本気でいくわよ」



 ゾクリ、とした。


 圧が違う。


 これが“本来のSランク”。


「来るぞ」


「……うん」



 一瞬で距離を詰める。


 今度は完全に“殺しに来ている”動き。


「速すぎる……!」


 ナギの反応が遅れる。


 ――当たる。



「ナギ、下がれ」


 俺が一歩前に出た。


 ギィン!!


 剣を受け止める。



「……あなたが出るのね」


「まあな」


 俺は軽く笑う。


「ここからは俺の仕事だ」



「あなた、戦えるの?」


「そこそこは」


 軽く構える。


 正直、身体能力は高くない。


 だが――


「見えてるから問題ない」



 女が踏み込む。


 だが今度は違う。


「遅い」


 最小限の動きで回避。


 完全に軌道を読んでいる。


「……っ!?」



「右、フェイント、次は下段」


 全部見える。


 全部分かる。


 だから――


 当たらない。



「……何それ」


 女の声に、初めて焦りが混じる。


「ただの鑑定だ」



「ナギ、最後だ」


「……!」


「“貫通”付けろ」


「……うん!」



 ナギの剣が光る。


 そして――


「今だ」


 俺が踏み込む。


 女の動きが一瞬止まる。


 その隙を――


 突く。



 ピタリ。


 喉元に剣。



 静寂。



「……参った」


 女が小さく笑った。


 完全に、降参の声だった。



「勝ちだな」


 俺は剣を下ろす。


 ナギがその場に座り込む。


「……つ、つかれた……」


「よくやった」


 頭を軽く叩く。



 周囲が爆発した。


「うおおおおおお!!」


「Sランクが……負けた……!?」


「なんだあいつら……!?」



 女がこちらを見る。


 さっきまでの余裕はない。


 代わりに――


 興味と、確信。


「……あなたたち、本物ね」


「まあな」



「ねえ」


 女が一歩近づく。


「やっぱり、うちに来ない?」


「断る」


 即答。



「……そう」


 だが、今度は引かなかった。


「じゃあ逆に――」


 一呼吸。


「私がそっちに行く」



「……は?」


 ナギが固まる。


「あなたたちの方が面白い」


 女は笑った。


「強くなれそうだし」



「いいのか?」


 俺は聞く。


「Sランクなんだろ?」


「だから何?」


 あっさりと言う。


「上がいるなら、そっちに行くでしょ」



 いい性格してる。


「名前は?」


「アリシア」


 短く答える。



「よろしく、リーダー」


 そう言って、笑った。



 こうして――


 新たな仲間が加わった。


 Sランク。


 しかも、最前線の戦力。



「……これ、やばい」


 ナギが呟く。


「うん、やばい」


 俺も同意する。


「完全に“始まってる”」



 無能と呼ばれた俺たちは――


 今、確実に“最強”へ近づいている。


 そして――


 この街すら、もう通過点に過ぎない。

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