第9話「敵は“国家”だった──俺たちは戦う準備を始める」

 勝利の余韻は、長くは続かなかった。


「……あの連中、ただの傭兵じゃない」


 セリスが低く言う。


「ああ」


 俺も同じ結論に達していた。


「動きが統率されすぎてる。あれは“組織”だ」


 リゼとエルナも頷く。


「……狙いもはっきりしてる」


「エルナだな」


 俺が言うと、彼女の肩が小さく震えた。



「話してくれるか?」


 優しく問いかける。


 少しの沈黙。


 やがて、エルナは口を開いた。


「……私は、“帝国”から逃げてきました」


 来たな。


「帝国?」


「……精霊の力を管理している国です」


 嫌な予感しかしない。


「“管理”ってのは?」


「……従わせる、という意味です」


 空気が冷える。



「精霊契約者は、希少です」


「だから、囲う?」


「……はい。自由はありません」


 つまり――


「逃げたから、追われてると」


「……はい」



「なるほどな」


 俺は軽く息を吐いた。


「分かりやすい敵で助かる」


「……助かる?」


 セリスが怪訝そうに見る。


「目的がはっきりしてるってことは、対策も立てやすいってことだ」


 俺は笑った。


「要は、“奪いに来るなら守るだけ”だ」



「だが問題はそこじゃない」


 俺は視線を上げる。


「次は、もっとデカいのが来る」


 全員が黙る。


「今回のは“先遣隊”だ」


「……じゃあ」


「ああ」


 はっきり言う。


「本隊が来る」



 沈黙。


 だが、その沈黙は――恐怖じゃなかった。


 “覚悟”だ。



「……どうする」


 セリスが聞く。


「決まってる」


 俺は即答した。


「迎え撃つ」


「勝てるのか?」


「今のままだと無理だな」


 正直に言う。


「だが」


 一歩踏み出す。


「勝てる状態にする」



「具体的には?」


 リゼが聞く。


「三つだ」


 指を立てる。


「戦力強化」


「防衛構築」


「そして――情報」



「まず戦力」


 村人たちを見る。


「今のままでも戦えるが、“兵”としてはまだ甘い」


「だから徹底的に鍛える」


 ガルドたちが頷く。


「やるしかねぇな……」



「次、防衛」


 リゼを見る。


「お前の出番だ」


「……任せて」


「村全体を“要塞化”する」


「壁、罠、導線――全部作る」


 リゼの目が輝く。


「……楽しそう」


 完全にスイッチ入ってるな。



「最後、情報」


 全員が少し不思議そうな顔をする。


「敵を知らなきゃ勝てない」


 俺は淡々と言う。


「だから“外”を知る」


「外……?」


「この村だけじゃ限界がある」


 一呼吸置く。


「仲間を増やす」



「……つまり」


 セリスが言う。


「スカウトか」


「その通り」


 俺は笑った。


「この世界、“埋もれてる天才”多すぎる」


 実際、ここまで全部当たりだ。


「だったら拾う」



「……どこにいるの」


 リゼが聞く。


「町だな」


「人が集まる場所には、必ずいる」


「……危なくない?」


 エルナが不安そうに言う。


「危ないに決まってる」


 俺はあっさり答える。


「でも、やる価値はある」



「じゃあ――」


 セリスが一歩前に出る。


「私が行く」


「却下」


「……なぜ」


「お前は“戦力の核”だ」


 即答。


「ここに残れ」


「……」


 少しだけ不満そうだが、納得はしている顔だ。



「じゃあ誰が行くの」


 リゼが聞く。


 俺は少しだけ考えて――


「俺だな」


「……え?」


「一番適任だろ」


 肩をすくめる。


「見抜けるのは俺だけだ」



「……一人で?」


 エルナが心配そうに言う。


「まあな」


「大丈夫なの?」


「大丈夫じゃなくても行くしかない」


 笑ってみせる。


「ここで止まる気ないだろ?」



 少しの沈黙。


 そして――


「……分かった」


 セリスが頷く。


「なら、任せる」


「任された」



「その代わり」


 セリスの目が鋭くなる。


「必ず戻ってこい」


「当たり前だ」


「ここが拠点なんだからな」



 リゼも小さく言う。


「……待ってる」


 エルナも頷く。


「……無事で」



「おう」


 軽く手を振る。


「すぐ帰る」



 こうして――


 次の一手が決まった。



 敵は国家。


 こちらはまだ“村”。


 普通なら、勝負にならない。


 だが――


「だから面白い」


 俺は笑う。



 無能と呼ばれた俺は――


 今、確信している。


 この戦い、勝てる。


 なぜなら――


「俺が全部、見抜くからだ」



 そして――


 俺は村を出た。


 新たな“才能”を見つけるために。

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