幕間1
「この前はごめんね」
白い熊が鼻を鳴らし、アルエットの組んだ手に鼻先をコツンと当てた。
もう大丈夫だ。
熊は唸り声を上げ、ついてくるように合図した。
向かう先はカルムの町だ。
アルエットはグィオットにもたれかかった。
一人なら、体力が残っていない自分を責めたかもしれなかった。
でも今は彼がいた。
グィオットはアルエットを抱き上げ、うとうとする彼女をずっと運んでくれた。
夏の夜明けはまだ数時間先だった。
春の名残である夜の冷え込みを心配し、彼はスカーフをお腹にかけてくれた。
アルエットは礼を言い、しがみついた。
なぜ「死の魔女」なのか?
過去の自分が固執していたのか、それとも別の力がその親和性を与えたのか?
二人は静かな旅路で考えを巡らせたが、手掛かりのない謎だった。
グィオットは咎めなかった。
今は大切だと認識した少女を守ると誓い、運び続けた。
数時間歩き、地平線から微かな陽の光が覗いた。
アルエットは浅い眠りを繰り返していたが、やがて遠くに温かな街灯と瓦屋根を見つけた。
熊は二人を町の中心へと導いた。
広場を過ぎた先に、家でもあり博物館のようでもある三階建ての建物があった。
前足を上げ、熊は文明的な市民のようにドアノッカーを使ったが、その動きは――まあ、熊らしく不器用だった。
まるまる一分と、十数回のノックが必要だった。
ボサボサの砂色の髪をした男が、あくびを噛み殺し、片眼鏡とゆったりしたローブを整えながら出てきた。
コウ・フレンの衣服は大陸では優雅な装いとされるが、だらしなく着た単衣の寝間着姿は、いささか見劣りした。
「110号? どうしたんだい?」
彼は熊に尋ねた後、二人に気づいた。
「おやまあ。何があったんだ? 大丈夫かい?」
その温かい瞳を見て、少女は感情を抑えきれなかった。
彼からは死の匂いがしない。この町もそうだ。
心が弱っていた彼女は、まるで命そのものにすがりつくように彼へと身を乗り出した。
グィオットはそこで止まると思ったが、アルエットは手を伸ばし続けて篭手から滑り落ちた。
悲鳴も上げず、彼女は肩から石畳に叩きつけられた。
驚いて、グィオットと男が彼女に駆け寄った
男は痛むかと聞き、一体何をしようとしたのかと尋ねた。
アルエットは首を振り、彼の袖を掴んで泣きじゃくった。
「普通の人だ。普通の人だ!」
とむせび泣いた。
最初は数滴の涙だったものが、号泣に変わった。
混乱、苛立ち、恐怖。安堵と感謝。
すべてが一気に押し寄せた。
この世界で、この男を躊躇させるものは多くない。
しかし、この少女の涙は過去の鏡像を映し出していた――祭壇の階段で待っていた、ギ・ユンという名の少年の姿を。
カルトの地下室の独房で待っていた姿を。
運命の秋の日まで、誰かが救ってくれるのを何年も待ち続けていた姿を。
今度は自分が誰かを助ける番だ。
もちろん、あの不機嫌な爺さんよりも上手くやってのけるさ。
優しい手がアルエットの肩に置かれ、体を離すと、安心させるような笑みが見えた。
彼は心配するグィオットの腕に彼女を戻した。
「私はそれでも魔女だよ、お嬢さん。判断するのはもう少し待ったほうがいい」
ローブの皺を伸ばし、彼は博物館のドアを開けた。
揺らめく光と、奇妙な骨董品たちのささやき声が漂ってきた。
「私はアーティファクト。どうぞ、くつろいでくれ」
【アートギャラリー】
人形の魔女 幕間1挿絵「アルエットたちとアーティファクト」:https://50821.mitemin.net/i1156811/
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