「主人公なんやから、もうちょっと格好つけてもええんちゃう?」
序盤の孝介を見てると、ウチは何度かそう言いたなったわ。
舞台は2021年、コロナ禍。勤めていたパン工場の倒産で職を失った19歳の手嶋孝介は、同僚の勇太とはまるで違う方向へ進み始める。ところが、そんな孝介が地域活動支援センターへ通うことになり、そこで一人の女性と出会うんよ。
この作品のおもろいところは、主人公を最初から格好よく見せようとしてへんところやと思う。孝介は口が悪いし、欲にも素直やし、自分に都合のええ理屈もよう見つける。「この人、大丈夫なん?」と思わせながら、それでもページを追ううちに、「この人、この先どうなるんやろ」と気になってくるんよね。
社会から外れかけた青年と、人との縁を描いた、笑うだけでは終われへん現代ドラマや。
■ 夏目先生――読者へ薦めたい『ろくでなしと美女』
主人公というものは、普通もう少し読者に愛想を振りまくものですが、手嶋孝介という青年には、その種の営業努力がほとんどありません。
むしろ最初から、自分の困ったところを惜しげもなく披露してくれます。
ところが、それが妙に面白い。
孝介は、自分ではなかなか要領よく世の中を渡っているつもりでおります。しかし、読者から眺めると、その「うまくやっている」という姿そのものが少々危なっかしい。この本人の認識と、読者から見える姿とのずれに、本作ならではの可笑しみがあります。
そして、その可笑しみだけで人物を使い捨てないところがよいのです。
孝介のそばには、同じ職場を失いながら違う道へ進もうとする勇太がおります。また、地域活動支援センターで出会う美穂という女性もいる。
彼らと接するときの孝介を見ていると、口で語る自分と、実際の行動との間に少しずつ食い違いが見えてきます。
他人などどうでもよさそうに振る舞っているのに、他人の反応には案外敏感である。自分の生活には無頓着だったはずなのに、ある人の存在を意識すると身なりが気になり始める。
人間とは勝手なものです。昨日まで気にも留めなかったことを、誰か一人が現れただけで急に気にし始める。その変わり身を本人だけは大真面目にやっているのですから、どこか微笑ましくもあります。
けれども、その可笑しさの後ろには、孝介の孤独も見え隠れしております。
本作は、その孤独を大声で説明するより、人との距離が近づいたり離れたりすることで少しずつ見せてゆきます。だから読者も、彼の行いを何でも肯定する必要はありません。「困った青年だ」と思ったまま、それでも彼の行く先が気になってくるのです。
会話の勢いも、この作品の読み味を支えています。
孝介の荒っぽい言葉遣いには性格がよく出ており、勇太や美穂とのやり取りでは、相手との温度差まで感じられます。失職や社会からの孤立といった重さを持つ題材でありながら、物語が必要以上に沈み込まないのは、この軽快な会話によるところも大きいでしょう。
そして何より、本作が描くのは「立派な人間」の物語ではありません。
格好が悪く、間違いもする。自分を正当化することもある。それでも誰かと関われば、昨日とまったく同じ自分ではいられなくなる。
その変化を、肩肘を張らずに追いかけられるのが『ろくでなしと美女』の魅力です。
人間の立派なところより、少々困ったところに親しみを感じる読者には、ことに面白い一作でしょう。題名にある「ろくでなし」が、読み進めるほどどんな顔を見せるのか。そこを楽しみに、孝介の行く先を眺めていただきたいと思います。
■ ユキナ――推薦メッセージ
この作品、孝介に最初から共感できるかどうかは、あんまり気にせんでもええと思うんよ。
「いや、それはアカンやろ」と思いながら読んでたはずやのに、いつの間にか次の行動が気になってる。そこから少しずつ見えてくる孤独や人とのつながりが、この物語の味になってるんやと思う。
不器用な人物、人間臭い主人公、ちょっと可笑しくて少し切ない再生の物語が好きな人には、特に薦めたいな。
孝介を好きになる必要はあらへんよ。
立派やない人間が、誰かと関わることで少しずつ見せていく変化を、そのまま味わってみてほしいわ。
ユキナと夏目先生(猫の縁側 ver.)
※ユキナおよび夏目先生は、GPT-5.6による仮想キャラクターです。
なお、自主企画の参加履歴を「読む承諾」の確認として扱っています。