何だったっけ?
〇お題「文化祭」の短編です。
とにかく、忙しい一カ月だった。
今回の同窓会の幹事は俺の番だったのだが、そんなわけで、今から向かう同窓会は幼馴染に頼み込んで、代わりにセッティングしてもらったのだ。
実家が隣とはいえ、学校も違うのに甘え過ぎかな。
快く引き受けてくれたし、まあ、いいか。
その同窓会に行く道すがら、俺の行く先を大きなベニヤ板が塞いでいた。
俺は思わず舌打ちしそうになった。
いかんいかん。短気は抑えないと。
いい大人なんだから。
歩道のほとんどを
すみません、と素直に頭を下げたので、こちらも片手を上げて気にしてないよと示す。
頑張りな、と彼らに声をかけて進んだ先には、彼らの母校であろう高校があった。
その校門周りには、赤や黄色の派手な色彩の看板が立てかけてあった。
『
何て読むんだっけ。
そういえば幼馴染が通ってたのって、こんな名前だったよな。
そういや、俺たちもやったんだよな。
文化祭。
はて、何をやったっけ?
「焼きそばじゃなかったかな?」
結婚式の二次会以来、一年ぶりに会った山田一号は、フライドポテトを頬張りながら答えた。
居酒屋の二階の宴会場。
貸し切りの座敷には、二十人ばかりの参加者といったところか。
顔を見れば名前の出る奴から、名前を聞いても誰だお前という奴までいろいろだ。
この山田一号のことは、忘れもしない。
「一号は、名前じゃねえ」
このやり取りも、実に一年ぶり。
こいつの旦那は、『山田二号』とあだ名をつけていた悪友の一人だ。
というか、二人は俺を経由して付き合い始めたはずだから、恩人ではあるまいか。
旦那と一緒に来なかったの?
「急な仕事が入っちゃってね。
さっきうまく片付いたからって……
もうすぐ、ここに着くんじゃない?」
山田一号はスマートフォンを取り出して旦那からのメッセージを確認した。
「あら……
ああ、会長も遅れるって言ってたな。
そういや、あいつらの友情も、俺経由なんだよな。
「焼きそば、だったっけ」
俺はちょうど届いたばかりの焼きそばを小皿によそって同じテーブルの参加者に配った。
「やってたろ……どこかで」
「どこか?
俺たちのクラスで何やったかって話だぞ」
「食った覚えは、ある」
山田一号は俺がよそった焼きそばをズズズと
「会話しやがれ、この酔っ払い」
ひとしきり笑ってから、俺はもう一度訊こうとした。
「なんか、模造紙を壁に貼らなかった?」
突然、正面にいた『誰だっけお前』が、俺たちの会話に入り込んできた。
そいつの指が、宙で四角を描いた。
「未来の道具、とかさ」
言われてみれば、そんなことをやった気もするな。
その『未来の道具』に何を書いたのかは、さっぱり覚えてないのだが。
「何を書いたか、だって?
そこまで覚えてねえよ」
『誰だっけお前』はそこまで言うと、やってきた唐揚げの方に夢中になってしまった。
話題がブツ切りになった俺は、頭を掻いた。
広がらないもんだね。
「何が?」
おお、山田一号。
やはりお前が、心の友よ。
「気持ち悪い。用件を言え」
山田一号は俺が差し伸べた手をはたき落とした。
「文化祭の話だよ。さっきから、その話だろ?」
「出てこないものは、しょうがないじゃないのよ」
そりゃ、そうなんだけどね。
なんか、喉に引っ掛かってる感じがするんだよ。
「模造紙で思い出したけど、うるさい先生がいたような。
端が揃ってないと気に入らないってさ」
なんか、覚えがあるな。
通り過ぎるだけの展示に、そこまでやるかって不満を覚えたような。
口答えは、シテナイヨ?
「オーツキ?」
「大塚だよ。大槻は隣のクラス」
よく覚えてるな。
あの副担任の大塚。
あいつ、まだ学校いるの?
山田一号は首を傾げた。
「もう辞めてる。
今、うちの近所で畑やってる」
山田一号を挟んだ隣にいた『お前、誰』が会話に割り込んできた。
「朝、犬の散歩してると、たまに顔を合わせる」
あいつが俺たちの副担任になったのって新卒だったよな。
まだ三十歳になったぐらいじゃないか。
いつの間にか、『お前、誰』と正面の『誰だっけお前』が発端の俺たちを放り出して副担任の話で盛り上がり始めた。
この酔っ払いどもが。
結局、誰も文化祭のことを覚えてねえのかよ。
俺が十人ほどの参加者を回ったところで、会場の襖が開いた。
会長と山田二号が現れたのだ。
「悪い、遅れた」
山田二号から会費を受け取った俺は、会長に質問を浴びせた。
「おう、会長。
文化祭で俺たちが何やったか覚えてる?」
「唐突だな、お前は。
それと、いい加減に会長って呼ぶのは止めれ」
生徒会長だったのは七年も前だ、と会長がぼやいた。
俺は会長から脱いだ上着を受け取って隅のハンガーに掛けた。
そして、二人を元居たテーブルに案内したのだった。
悪い、そこ、詰めて。
高校時代からの悪友四人組の
会長や山田二号が来たので、改めてみんなで乾杯をすることにした。
別の席から、結婚おめでとう会長、と声が飛んだ。
「ありがとう。
でも、もういい加減に会長って呼ぶのは止めれって」
「木村って苗字、ここだけで三人いるんだぞ?」
「山田みたいに、一号、二号って呼び分けるか?」
そこに『お前、誰』と『誰だっけお前』が手を上げて、木村だと名乗った。
俺の驚いた顔を見て、傷ついた顔をしていたようだ。
憶えてなかったもんは、仕方ねえじゃねえか。
若干バツの悪い思いがした俺は、その二人を避けるように会長の方に身を寄せた。
「なに、引っついてきてんだよ」
喉が渇いていたのか、会長は一気に飲み干してグラスを置いた。
「それより、覚えてねえのかよ。
文化祭じゃ、催事申請に面接に予算配分。
お前とも散々やり合ったろうが」
お前が生徒会長だったことしか、覚えてねえや。
「俺が、文化祭の時期に何のために夜遅くまで学校に残ってたと思ってるんだ」
だから、その文化祭で何をやってたかを訊いてるんだよ。
俺たちの様子を見ていた山田二号がケタケタと笑った。
笑われた会長は、俺を睨んだ。
あのさ、怒るにしても、相手を間違えてないか。
で、何やったっけ、会長?
「……文化祭の当日は、あちこち見て回ってた」
そうだっけ?
会長がまた俺を
「模擬店も展示も似たようなのばっかりで、正直思い出せないな」
結局、お前もかよ……
「俺は、一年生で会計のときからずっと生徒会なんだぞ。
三年分の全クラス、混ざってゴチャゴチャなんだよ」
申請書とかは覚えてるのに?
「締め切りを過ぎても出さない奴が、ここにいたことは覚えてる」
会長がじっと俺を見た。
……俺か?
「お前だ」
何の申請だった?
会長は黙って俺が注いだお代わりのビールを飲んだ。
おい、何か、言え。
「会長、会ったら訊こうと思ってたんだ」
木村二号が会長の方へ向き直った。
「修学旅行。
沖縄だったじゃん。
あの日程ってさ、決めたのは、生徒会か?
下見に行ったとか聞いた覚えがあるし」
「決めたのは、先生だろ。
俺たちは部屋割りくらいだぞ」
「なんだ。ずっと、文句言ってやろうと思ったのに」
「何でだよ」
「
ああ、あれな。
あまりにきついし酷かったんで、俺も覚えている。
沖縄を北へ行ったり南へ戻ったり、バスから降りては乗せられて。
水族館だけじゃない。
海洋博公園だっけか。
そこの中の植物園だって時間がなかった覚えがある。
「端まで行ったぞ、俺」
木村三号が元気よく手を挙げた。
俺たちは入口の売店でマンゴー味のアイスを味わってたら、もう集合時間だった。
「防空壕の見学だって、後ろからどんどん圧をかけられてさ」
木村二号の愚痴は続く。
「案内の人、一生懸命説明してくれてんのに、先生が後ろから次のクラスが来てるって急かすんだよ」
「聞けって言われたり、進めって言われたりな」
「結局、足元に気をつけてってのしか、頭に残ってないわ」
「そういや体育祭、俺らが勝ったっけ?」
優勝だって、はしゃいだ記憶はあるな。
「会長、そういやオーラスのリレーに出てたよな?」
「……そのリレーで
クラスも逆転優勝だった」
会長、顔、真っ赤だな。
ああ、酔ってたんだった。
「……うるせえ」
「そろそろ、時間でーす」
わざとらしく腕時計を見ながら、俺は立ち上がった。
集合写真を撮って、さっさと解散にしますよ。
ハイ、チーズ!
さあ、帰った、帰った。
参加者を会場から追い出すと、忘れ物がないことを確かめ、会計を済ませた。
食べ放題飲み放題コースは、定額だからこういうときに便利だね。
「二次会行く人ー」
店の外では、酔っ払いどもが同窓会の幹事を差し置いて、盛り上がっていた。
「お前は?」
山田二号がニヤニヤしながら俺の肘をつついてくる。
控えめに言っても、
「知ってるだろ。明日、忙しいんだよ」
「冗談だよ。また今度」
山田二号は嫁の山田一号に小突かれながら、二次会組に合流していった。
「おう。飲み過ぎんなよ」
飲み過ぎる気しかない連中が、会場からほど近いカラオケ店へ入っていった。
そういえば、文化祭で何をやったのか、
なあ、会長?
「……なんだ?」
そういやさ……
お前が俺に告白してきたのって、文化祭じゃなかった?
会長からの告白が、
フォークダンスの音楽が鳴りやんだ時だったことを、たった今、思い出した。
「今さら?
さっきはわかったうえで、俺に言わせようとしてたんじゃなかったのかよ」
実際、忘れてたんだよ。
あの時は、お前の告白を断ったしな。
俺と会長が付き合うようになったのは、社会人になって再会した後のことだ。
信号が青に変わったので、俺たちは並んで渡る。
先月から、会長は新居に住んでいる。
俺は、先週からだ。
「明日から、ちゃんと名前で呼べよ。
はいはい。
「返事は一回だろ?
二回は『うるせえ』って意味だ」
「そのとおりだよ。
寝床と兵糧を押さえた花嫁の機嫌を損ねるのは、お勧めしないぞ?」
こんな俺たちは明日、結婚式を挙げるのだ。
《終わり》
文化祭で何をやったか、覚えていますか?
私は、記憶にありません。
少なくとも、中学と高校の三回は参加したはずなんですけど。
……転がしてみました。
語り手の正体は、別の短編小説の脇役だったりします。
勘のいい方は、途中で気づかれたでしょうか。
元ネタの一つ。
田中芳樹の短編『銀環計画(プロジェクト・シルバーリング)』(1983年)
べらんめえ口調のヒロインと結婚する主人公っていう
初見殺し設定がありまして、
届かないまでも自分なりに消化してみました。
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