冒頭のレモネードが最後まで物語の軸として生き続け、甘さと酸っぱさが二人の関係そのものになっている構成がいいですね。
異世界ファンタジーでありながら、本当に胸を締めつけられたのは、残された颯太の現実でした。警察、マスコミ、時間とともに薄れていく記憶、一方通行のメッセージ……待つ側の苦しさがとても丁寧に描かれていて何度も胸が痛くなりました。
そして再会の喜びだけで終わらず、最後に漂う彼女は本当に元のままなのだろうかという静かな不穏さ。血の匂いと最後の一文が、この物語を単なるハッピーエンドでは終わないのもあとに残りますね。
タイトル『嘘と桜とレモネード』も読み終えた瞬間に意味が変わるのも好きです。
切なさ、優しさ、ファンタジー、そして少しの怖さ。そのすべてが一杯のレモネードの中に溶け込んだような甘くほろ苦い作品でした。
最初は、異世界系にはまって行方不明になる少女の話か、異世界転移した彼女との切ない別れの話かと思いましたが……
展開しました。良い意味で予想外の方向に――
主人公の少年の語りが情緒的で、繊細な為、待つ者の痛みがじんわりと伝わってきて、苦しくなりました。
全体が五個の節に分かれている点も面白く、それぞれ色んな要素が詰まった良いところ取りではあるんですが、そういった作品にありがちのパッチワーク感がないのは、遠くへ行ってしまった恋人を思い続けるという主題が、一本通り続けているからだと感じました。
短編ですが、まるで長編小説を一本読み切ったかのような満足感を与えてくれる一作でした!
いちばん印象に残ったのは、再会そのものよりも、最後にほんの少しだけ残される「――の匂い」でした。
春香が帰ってきて、レモネードを飲んで、やっと二人の時間が動き出すところはすごく嬉しいはずなのに、その奥では不穏な気配も残っていて。
再会の甘さを壊さずに、三年間の時間の重みまで感じさせてくれる終わり方でした。
レモネードの使い方もとても印象的でした。
幼い頃の思い出、別れの日に飲まれなかった一杯、待ち続けるための儀式、そして帰ってきた春香に渡す最高の一杯。ずっと同じ飲み物なのに、その都度意味が変わっていくのが好印象です。
蜂蜜や塩まで入った具体的なレシピがあるからこそ、二人の関係がちゃんと“現実の手触り”を持っていたように思います。
異世界の冒険譚そのものより、信じられなかったことへの後悔や、届かないメッセージを送り続ける時間がしっかり描かれているので、読んでいて感情が置いていかれませんでした。
再会はハッピーエンドなのに、ちゃんと傷の深さも残る。そこがこの作品の魅力だと感じました。