読了したので書きます。今回は荒川瀰都土(みつち)&産土(うぶすな)より依頼された自分が書いている吸血鬼作品『マスカレード-鮮紅』-との比較を踏まえてレビューを書きます。
参考までに拙作はこちらになります。
『マスカレードー鮮紅ー』
https://kakuyomu.jp/works/16818622172796791140
2043年を舞台に吸血鬼に襲われた少年・九竜と、それを助けたカッコよくて頼りになる弦巻葵が活躍するダークファンタジーです。
※講談社の新人賞に応募するにあたって『罪喰らいのノーヴェ』をリメイクした作品になります。
最初に申し上げますと、作品の設定の緻密さがこれまでカクヨムで読んできた作品の中で群を抜いて高いです。一言で言い表すのなら、とてもリアリティがあります。
情報量が多いので分けて記載していきます。
まず、作品の根幹になっている吸血鬼の設定。ここからして設定が緻密。生物学的なアプローチが徹底しています。まるで『シン・ゴジラ』でゴジラを解き明かそうとしている場面を思い浮かべました。しかも、長ったらしく設定を説明するのではなく、日常シーンの中にそれを自然な形、主に食事のシーンで溶け込ませているところが秀逸です。吸血鬼の生態に裏付けされているうえに、描写が丁寧なため飯テロばりの威力があります(基本的に特殊な料理は無し)。
拙作では魔術的な要素が少なからず絡んでいるので、科学的な視点からここまで詰めるという考えは思いつかなかったので本当に驚きました。
次に設定が現実世界で起きた出来事だと主張しても通用してしまいそうなぐらいにリアリティが高い点ですね。というよりは、骨太過ぎて現実に根を下ろしているのではと思えてしまいます。
読んでもらえるとよく分かるのですが、過去から現在へ至るまでの設定、現実世界で吸血鬼に立ち向かう人たちの足場回り、吸血鬼と戦うための下準備と官公庁との連携など。虚構から現実へと片足を突っ込んでいるような緊迫感があります。
拙作では後々触れることになる要素の1つなので、指標としたいと感じてしまうほどここの描写のレベルは高いです。
次に恋愛描写が徹底しています。というよりも、ここが本命というレベルで熱量がすごいことになっています。
単にピュアピュア、甘々な恋愛で終わりません。若さ故の壊れたダンプカー並みに爆走する欲求はよくある話。しかし、違うのは、それをしっかりと、皿の隅まで逃さずに描く熱量です。これもまたリアル。突っ走るエネルギーの熱量を余さずにぶつけてきます。
以上の点が特筆して素晴らしいですね。とても長文になってしまい失礼しました。
最終的な拙作との比較になります。
拙作とはアプローチが違う(拙作は魔術的な要素が絡んでいる)ところを除けばこれらの点(吸血鬼の設定、作品のリアリティ、恋愛などの人間関係)を重視して描いていますが、全体的に文章力と設定の緻密さは本作のほうが高いですね。しかも、複数の要素を違和感なくまとめ上げる構成力も素晴らしいです。
複数のレビュアーが口を揃えて言います「タイトルと概要で損をしている」と。その通りです。あの長大な煩悩タイトルをくぐり抜けた先にあるのは、神や妖怪が実在する社会で、吸血鬼になってしまった幼なじみを守ろうとする男の子の、骨太なハードボイルド怪異サスペンスです。
銃、妖刀、医療制度、警察チートも異世界無双もなく、ロジックと地道な証拠集めで「守りたい存在が容疑者でもある」状況に立ち向かう構図が秀逸。エンターブレインコンテスト応募中という事実も、作品の実力を裏付けています。
タイトルで敬遠した方こそ、ぜひ第1話だけでも読んでみてください。
主人公・信之介のキャラクターが特に秀逸で、彼は吸血鬼退治の専門家でありながら、駆除すべき存在である天野を守ることに迷いがない。
その判断は感情的な甘さではなく、血痕の有無や行動パターンの論理的な分析に基づいており、読んでて納得できる形で示される。少年漫画的な熱さと、医療従事者らしい冷静さが共存するキャラクター造形が見事。
天野との関係描写もうまくて、「昔のように手を繋いで駐車場まで駆ける」「眠るまで手を握る」といった、ロマンスとしてはかなり控えめな行動が、二人の距離感を雄弁に語る。
過剰な告白や劇的な展開にたよらず、ごく小さな仕草の積みかさねで感情を伝える筆致は品があって、読んでて心地よい。
タイトルとあらすじから受ける印象とは裏腹に、中身はかなり骨太なハードボイルドサスペンスでした。
特に、ヒロインの天野が吸血鬼になってしまったタイミングで、同時に吸血鬼による殺人事件が起きる構図が効いています。
「守りたい存在が、そのまま容疑者でもある」という状況の中で、信之介が天野が犯人ではない証拠を一つ一つ積み上げていく過程がとても印象的でした。
読んでいて、名探偵コナンの工藤新一のセリフ
「カッコなんかよくねーさ!きっとその時は、疲れてボロボロになってるよ…その人が犯人じゃない、ありとあらゆる可能性を必死に探しまわった後だろーからな…」
を思い出しました。
派手な推理ではなく、地道に“違う可能性”を潰していくことで真実に近づいていく、その泥臭さがこの作品の魅力だと思います。
あの欲望全開で突き抜けたタイトルから、これほどまでに骨太で重厚な物語が展開されると、一体誰が予想できたでしょうか。
一見すると煩悩の赴くままのコメディを思わせる看板ですが、その実態は、怪異現象に対する精緻な科学的解釈と緻密なロジックによって構築された、超本格派のハードボイルド怪異サスペンスです。
ファンタジーという枠に留まらず、上質なハードSF作品にも通じる圧倒的な読み応えを誇っています。
吸血鬼と化してしまったヒロインの過酷な運命もさることながら、事件の裏に潜む真犯人は誰なのかというミステリー要素が非常に秀逸で、一度読み始めればそのシリアスで知的な展開から目が離せなくなります。
作者様の悪戯心に溢れた、最高にタチの悪い(褒め言葉です)トロイの木馬です。
ぜひ騙されたと思ってページをめくってみてください。そこには極上のサスペンスが待っています。