第32話 茶柱玲人
(ここから僕の新しい生活が始まるんだ!)
中学校までは順風満帆とはいえなかった。
玲人は人見知りで、人とのコミュニケーションが苦手ないわゆるコミュ障だ。玲人の方から相手に話しかけられないため、基本的に受け身だった。そのため、必然的に友達は少なくなる。
友達といっても会ったら少し話をする程度の知り合いに等しい間柄である。
アニメや漫画に出てくるような親友と呼べる人物がいれば、他の友達は少なくてもいい。――いや親友1人いれば十分だったが、1人も存在しなかった。
友達が少ない人にとって、学校の試練が存在する。そのうち2つが印象に残っている。
まず1つが体育の準備運動で作る2人組だ。
(体育は比較的好きだが、これのせいで気が重いんだよな)
数少ない知り合いは、玲人以上の友達がいるので、準備運動は一緒にできない。
となると同じく友達がいない人や半端になった人と組めることを願うしかない。
普段話さない人と組むことは、それはそれで気まずいがもっと最悪の場合がある。玲人だけが半端になって、体育の先生と準備運動をすることだ。
ただでさえ自分だけが場合によっては何周りも年上の先生と準備運動をするだけ注目を浴びてしまうのに、前に出て準備運動をやらされることになる。
(みんなに見られるなんて最悪だ)
なるべく目立ちたくなかった。ただでさえ体が硬いのに、緊張でいつも以上に体が伸ばせないといういやな思い出があった。
2つは遠足や修学旅行の班決めだ。
(これも辛かった)
自分から話かけられない玲人は誰かに声をかけられるのを待っていたが、しばらく声が掛かることがないまま、時間が経過していく。
決まっていないメンバーが少なくなっていく。早く終わらせようと思ったのか、数が足りない班のメンバーから声が掛かることもある。
だが大半は余ったメンバーで組むことが多い。余っていると周りに申し訳なくなる気持ちと自分が惨めになってくる気持ちが芽生える。
どうせなら体育だったら背の順、班決めなら出席番号順や席順などで決めてもらえたら、気楽になれるとどれだけ考えたことか。
こういうとき妬ましく思うのは、人に迷惑ばかりかけているのにいつも周りからよく声を掛けられている人だ。
人のために行動して友達がたくさんいる人は、なんか別世界の住人という印象だ。
(あんまり気にしないし、むしろすごい)
多くの人とやり取りできて、尚かつ好かれているということは、なかなかできることはないと玲人は身をもって知っている。
(きっと性格がいいんだろうな)
だが人の役に立つことはせず、なのに周りに対してきつく当たっている人が声を掛けられているところを見ると、自分には関係ないとはいえ、気になってしまう。
輪の外側にいる玲人から見ても、文句ばかり言っているのに友達がいる人はある意味では、これまた別の世界の人ではある。
(なんか見ているとムカつく!)
中学校まではそんな他人を思いやらずに友達がいる人を玲人は恨めしく思っていた。
通う学校が近所に決まらない高校では、心機一転新しい学校生活に胸をときめかせていた。
なぜなら玲人は狭間世高校に通うことになったからである。
「いいよね~狭間世高校。
なんかいろいろ自由らしいじゃん」
「設備が整っていて校舎もきれいらしいよ。
でも倍率がねえ~」
「夢のまた夢だね~」
中学のクラスメイトがこんなことを会話していた。
玲人は勉強ができなかった。
しかし学校の先生から面談の際、狭間世高校の受験を勧められた。
(記念受験のつもりで受けてみるか)
結果、受かってしまった。しかもSクラスに。特待生的な感じで学費も減額されるらしい。
「え、僕がどこの高校に行くかって?知っているかわからないけど、狭間世高校ってとこだよ。……まあ一応Sクラスって書いてあったわ」
中学のクラスメイトに進学する高校を聞かれたら、自慢にならないように話す準備をしていた。
なかなか決まらない人もいたので大っぴらに話す雰囲気ではなかった。
また、こそこそ話ができる間柄の友達はいなかったため、入学の話を話すことはなかった。
(もしクラスメイトに話したら、どうなるだろう?)
「え、お前狭間世高校なの?やるじゃん。おい、飯でも食べに行くか?」
「へえ~、茶柱君って狭間世高校に入学するんだ。……連絡先教えてもらってもいい?」
想像したことは何度もあったが、それが実現することはなかった。
クラスメイトからの羨望の眼差しを受けることはできなかったが、狭間世高校Sクラスでの新しい学校生活をとても楽しみにしていた。
玲人の家から学校までは距離があったので、朝早く起きて学校へ向かう必要があった。
初日から遅刻してしまうと、先生やクラスメイトに良くないイメージがついてしまう。
(やっぱり悪目立ちしたくない!)
時間にきちんと起きられるように目覚まし時計を二個セットして臨んだ。
だが目覚ましが鳴るより、早く起きることができ、余裕を持って学校に向かうことができた。
話しかけられたらちゃんと答える練習を心の中でしていた。
だが初日は入学式があり、すぐ下校となったが誰にも話しかけられることはなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます