面白い新入りメイド
※アクルス視点。
「どうしましょう……」
新入りのメイドである、リキュードと一緒に買い物に来ていた。が、うかつにも財布をなくしてしまい、かなり困っているところだった。通ってきた道を探しても、全く見つからない。
「このままじゃ私達は死刑ですね」
不意にリキュードが口を開いた。本当にそう思ってるのか、冗談なのか、私には分からなかった。
「大丈夫ですよ。ちょっと怒られるだけです」
「怒られるのも嫌ですけど……」
「死刑になるよりかは全然いいと思いますよ」
「そうですね。……とりあえず、城に戻りますか?」
「ええ、そうしましょうか」
どこかへ行く時、魔法が使えない人々は瞬間移動ができる魔法の石を使う。この石にも格があり、半永久的に使えるもの、何回か使えるもの、一度しか使えないものがある。
私が持っているのは半永久的に使える石。一番高いものだ。なので、取られないために街から出て、人のいないところで使うのが普通だった。
「あ、アクルスさん! あそこにスライムがいます!」
街を出て早々、リキュードが少しはしゃいだ声でそう言った。私が困惑していると、リキュードは続けて言う。
「私、倒してきます! そうすれば、お金になりますよ!」
「ですが、武器がないと―――」
「スライムなら素手でもいけます」
「素手ですか?」
思わず聞き返す。が、リキュードはそれには答えず、その代わりに笑顔で言った。
「じゃ、行ってきます!」
「ちょっと―――」
リキュードは全力疾走でスライムに近づき、力強いパンチを食らわせた。すると、スライムはぐったりとして、動かなくなった。
(すごい、本当に素手で……)
思わず感心していると、リキュードがスライムを抱きかかえて、こちらに駆け寄ってきた。
「これで1ゼルクにはなりますよ!」
「これだと卵1個しか買えませんね……」
「もっと稼いできます! アクルスさんはここで待っててください」
「気を付けてくださいね……」
心配しながらもリキュードを見送る。
―――20分後。
「アクルスさん! やりましたよ! ドラゴンです!」
リキュードはドラゴンの翼を誇らしげに掲げた。
「ど、ドラゴンですか!? 素手で!?」
「まさか。ゴブリンを倒したらナイフを手に入れたので、それでドラゴンを倒しました!」
「ナイフだけで倒せるんですね……」
傘にもなりそうな大きな翼。こんな大きなドラゴンを倒したなんて、信じられない。
彼女はおぞましいほど強いみたいだ。こんな人間が存在するなんて……。
「これで必要なものは買えそうですね」
「たぶん元のお金よりも多くなりますよ。とりあえず、交換所に行きましょう」
交換所に行くと、かなりお金が貰えた。
「ついでにそのナイフも売りましょうか」
「え、売るんですか? 持って帰りたいんですが……」
「武器の所持は禁止ですよ」
「でも、アクルスさんはいつも銃を所持してるじゃないですか」
「私は魔王様に深く信用されていますから。特別に許可されているのですよ」
「……分かりました」
武器屋に行って、ナイフを売った。そして、そのお金をリキュードに渡すと、彼女は驚いた様子でこちらを見た。
「これで何か好きなものを買ってください」
「10ゼルクで? ほとんど買えないじゃないですか」
「そんなことありません。卵が10個も買えるのですよ」
「そうですけど……! うーん、じゃあ、雑貨店に行ってもいいですか?」
「ええ、いいですよ」
雑貨店に行くと、リキュードは香水売り場に直行した。
◇ ◇ ◇
「ただいま戻りました」
「遅かったな」
魔王が本から視線を離さずに言った。不機嫌なのかそうでないのか、よく分からない。
「申し訳ございません。色々とありまして……。そのお詫びに、リキュードさんからプレゼントがあります」
「プレゼント?」
魔王がパッと顔を上げる。
「……毒じゃないよな?」
「私も念のために確かめましたが、大丈夫そうでした」
「そうか」
リキュードは黙ったまま、魔王に小さな小瓶を渡した。
「香水か? どれどれ……」
魔王は手首にシュッと香水をつけ、匂いを確かめた。
「おえっ! なんだこれ、臭っ……!」
リキュードは隣でくすくすと笑っている。魔王の反応が面白いらしい。
「それ、脱ぎたてほやほやの靴下の匂いなんです」
「最悪だな」
「気に入っていただけたようで嬉しいです」
「気に入ってない」
「じゃ、私は部屋に戻りますね」
そう言って、リキュードは出ていった。その後ろ姿はどこか上機嫌だった。
「アクルス。なんでリキュードを止めなかったんだ」
「止めるほどではないと判断したので」
「……そうか」
魔王は手の中の香水を見つめると、机の引き出しにしまった。
「捨てないのですか?」
「ああ。捨てるのはもったいないと思ってな」
「引き出しの中まで臭くなったらどうするのですか?」
「確かに……。だが、それでも構わない」
「そ、そうですか……」
(やっぱり気に入っているんでしょうか……)
気に入らないと言いつつも矛盾する言動をする魔王。もしかして、魔王にとっては癖になる匂いだったりして……。
「魔王様。私のでよろしければ、本物の脱ぎたての靴下を差し上げましょうか?」
「は?」
「香水だけでは物足りないかと……」
「いや、そんなことはないぞ」
「遠慮しなくていいですよ。今度、リキュードさんに言っておきます。魔王様がリキュードさんの―――」
「それは言わないでくれ。絶対にだ」
「まだ最後まで言ってませんが?」
「言わなくても分かる。私がリキュードの靴下を欲しがってるとか言うんだろ?」
「はい」
「いいか? 絶っっ対に言うな! お前の行動しだいで私の人生が―――!」
と、魔王が熱心に頼んでいるところで、リキュードが戻ってきた。
「り、リキュード!?」
「すみません、忘れ物を取りに来ました。……何の話をしてたんですか?」
「いや、大したことじゃない。気にしないでくれ」
「そうですか? 『私の人生が!』って叫んでましたけど……」
「……いや、ちょっと叫んでみたくなっただけだ。お前が変なものをプレゼントするから腹が立ってな」
「変なものだなんて失礼ですね! あれは実用的な香水です!」
「実用的? どこがだ?」
「飲める香水なんです」
「そんなわけないだろ。飲んだら死ぬぞ」
「じゃあ、私が証明してあげます! 香水貸してください」
「香水はもうない」
「は?」
リキュードは意味が分からないといった表情で魔王を見つめた。いや、見つめたというより、睨んだという方が正しいかもしれない。
「アクルスがのどが渇いたって言って、香水を飲んでしまったんだ」
「噓が下手ですね、魔王様」
「本当のことだ。なあ、アクルス?」
魔王の目が、私に頷けと言っている。ここは上手く誤魔化さなければ……。
「は、はい。も、ももも、もちろんで、ご、ございます」
演技も噓も下手であることを忘れていた。あまりの挙動不審に、魔王は呆れた様子でこちらを見てくる。
「……そうなんですね」
しかし、リキュードには下手な演技を見抜けなかったみたいだ。
「また今度、買ってきます」
「買わなくていい。金の無駄遣いだ」
確かに、金の無駄遣いかもしれない。ここは、私がリキュードを説得するべきだろう。
「そうですよ。靴下の香水ではなく、本物の靴下を差し上げれば済む話です」
「え……」
リキュードはこちらを見つめたまま、石像みたいに動かなくなった。
魔王が慌てて謝罪する。
「すまないな。アクルスは実は変態で、たまに変なことを言い出すんだ」
誤魔化し方にも程がある。変態設定はやめてほしい。
「だから魔王様も変態なんですね。納得です」
「納得しないでもらえるか? 私はまともだ。アクルスと違って」
「まともじゃないでしょ。まだアクルスさ―――」
「私はまともだ」
やたら意地を張っている魔王に対して頭にきたのか、リキュードが声を上げた。
「アクルスさんは変態じゃありません! 魔王様とは違って! 魔王様とは違うんです!」
「そんな強調しなくていいだろ……」
「重要なことなので2回言いました」
確かに重要なことだ。リキュードはよく分かっている。
(……面白い人ですね、リキュードさんは)
「アクルスさんは変態じゃないですよねー?」
「ええ」
「それに比べて魔王様は?」
「まともだ」
「その言い方、気持ち悪いです。何なんですか? まともって」
「リキュードさん。気持ち悪いなんて言ったら、魔王様が余計に喜びますよ。真の変態ですから」
「あ、それはいけませんね」
「お前ら……!」
魔王が珍しく、しょうもないことで怒りだした。
「魔王様、大人げないですよ」
「まだ成人してないし、大人げなくてもいいだろ」
「もう大人だから子ども扱いするなとかおっしゃっていたのに、今は成人していないなどと言い出すのですね。魔王様は随分と都合のいい年齢なんですね」
「……」
魔王は返す言葉がないみたいだ。
「あの、魔王様」
ここで、リキュードが口を開いた。
「……どうした」
「すみませんでした!」
「いや、別に―――」
「魔王様のこと、200歳のじじいだと思ってました!」
「じ、じじい⁉」
「ぷっ……!」
思わず吹き出してしまう。そこまで老けて見えていたとは、魔王もなかなかだ。
「じゃあアクルスは何歳くらいに見えるんだ?」
「50歳くらいですかね」
「なのに私は200歳なのか?」
「はい。200歳って感じの顔してます」
「いや、どんな顔だ」
「例えるなら、脱ぎたての靴下みたいな顔でしょうか」
「そうそう! 例えが上手いですね、アクルスさん!」
「靴下の話はもういい! 出ていけ」
「はーい」
「かしこまりました」
言われた通りに部屋から出ると、リキュードが話しかけてきた。
「アクルスさんも、からかったりするんですね」
「そういうつもりではなかったのですが……」
「……天然すぎません?」
「え、天然痘ですか?」
「いや……やっぱり何でもないです」
「そうですか」
(もしかして、天然痘が流行していると言いたかったのでしょうか)
天然痘が流行っているなら、普通に言ってくれればいいのに……。
勇者は嫌う、魔王は好む 短編集 パルマス勇者 @raminnda
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