『お隣のゆるふわ美少女が、なぜか俺の部屋でくつろいでいる件 〜「ごはん、まだですか?」って、君は俺の飼い猫かなにか?〜』
第76話:公開告白の翌朝。魔法の防空壕を失った彼女は、ガチガチのロボットと化す。
第4部:言い訳ゼロの極甘同棲と、外堀完全制圧編
第76話:公開告白の翌朝。魔法の防空壕を失った彼女は、ガチガチのロボットと化す。
【第4部:言い訳ゼロの極甘同棲と、外堀完全制圧編】
第76話:公開告白の翌朝。魔法の防空壕を失った彼女は、ガチガチのロボットと化す。
秋晴れの、清々しい休日の朝。
俺の部屋、202号室のキッチンには、卵の焼ける甘い匂いと、フライパンの上でケチャップが焦げる香ばしい匂いが漂っていた。
「……よし、こんなもんだな」
火を止め、ふんわりと焼き上がった半熟卵を、あらかじめ炒めておいたチキンライス――もちろん、俺たちの定番である『玄米』を使った特製のそれ――の上に、滑らせるようにして乗せる。
昨夜、キャンパス祭のキャンプファイヤーの前で、全学生を巻き込んだあの『公開告白』の直後に、彼女からリクエストされた『恋人記念の特製オムライス』の完成だ。
昨日の夜の出来事を思い出すだけで、今でも顔が熱くなる。
『この人は私のもの。私たちは隣人以上、夫婦みたいなものだから!』
あの数百人の前で放たれた、彼女の堂々たる所有権の主張。
そして、俺からの『ちゃんと付き合ってくれ』という言葉。
長すぎた「恋人未満」という焦れったい期間は、昨夜をもって完全に終了した。
今日から俺たちは、正真正銘、誰に恥じることもない『恋人同士』だ。
カチャッ……。
オムライスを二つの皿に盛り付けていると、玄関の方から、合鍵を使ってドアが開く音が聞こえた。
いつもなら、ここで「湊くーん! おはようございます!」という元気で甘ったるい声と共に、部屋着姿のひよりがリビングに飛び込んでくるはずだ。
そして俺の背中に飛びつき、「ごはん、まだですか?」と頬をすりすりしてくるのが、俺たちの完成された『日常』のルーティンだった。
だが。
「…………」
ドアが閉まる音はしたものの、なぜかリビングには誰も入ってこない。
「ひより? どうした、早く手洗ってこいよ。オムライスできてるぞ」
俺が不思議に思ってキッチンから声をかけると。
「あ、は、はいっ! ただいま、手洗いうがいを、迅速に遂行いたしますっ!」
……なんだ、その軍隊みたいな返事は。
数分後。
洗面所からリビングに現れたひよりの姿を見て、俺は思わず持っていたフライ返しを落としそうになった。
「……おはようございます。湊……さんっ!」
そこに立っていたのは、いつものゆるふわな部屋着姿のひよりではなく。
白い清楚なブラウスに、膝丈のフレアスカートという、まるで『初めての彼氏の実家に挨拶に行くお嬢様』のような、ガチガチのお出かけコーディネートに身を包んだ白雪ひよりだった。
しかも、その姿勢は直立不動。
顔は耳の先まで真っ赤に染まり、大きな瞳は行き場を失ったように泳ぎまくっている。
「……お前、なんだその格好。今日、どっか出かける予定あったか?」
「えっ!? あ、いえ! 出かける予定は、ありませんが……っ!」
ひよりはロボットのようにカクカクとした動きでリビングの中央に進み出ると、真新しい淡いグレーの二人掛けソファの『端っこ』に、ちょこんと浅く腰掛けた。
両手は膝の上に綺麗に揃えられ、背筋はピンと伸びている。
いつもなら、俺が座る前からソファのど真ん中を陣取り、クッションを抱きしめてゴロゴロしているはずなのに。
「あの……お邪魔、しております。湊さん」
「湊『さん』ってなんだよ。いつも通り湊くんでいいだろ。……っていうか、お前、さっきから動きが不自然すぎないか?」
俺がオムライスの乗った皿をローテーブルに置きながら尋ねると、ひよりは「ひゃっ!」と小さく肩を跳ねさせた。
「ふ、不自然なんかじゃありませんっ! これは、その……『彼女』としての、正しい振る舞いというか……っ!」
ひよりは膝の上のスカートをぎゅっと握りしめ、涙目で俺を見上げてきた。
「だって……っ! 昨日までなら、『ただのお隣さんとしての親睦』っていう言い訳があったから、湊くんにくっついたり、甘えたりできましたけど……っ!」
彼女の言葉に、俺はすべてを察した。
なるほど。
このポンコツゆるふわ美少女は、これまで自分が散々使い倒してきた『隣人だから』『契約関係だから』という魔法の防空壕(言い訳)を失ったことで、完全にパニックに陥っているのだ。
いざ、本当に『彼女』という正式なポジションを与えられてしまうと、どうやって俺に接していいのか分からず、距離感を完全に見失ってしまったらしい。
「私、彼女になったら、どうやって湊くんに甘えればいいのか……分かんなくなっちゃって……。いきなり今までみたいにくっついたら、図々しい『彼女』だなって思われないかとか、色々考えちゃって……っ!」
顔を真っ赤にして、恥ずかしさのあまり消え入りそうな声で白状するひより。
そのいじらしさと、不器用すぎる初々しさに、俺の胸の奥で何かが爆発した。
(……可愛すぎるだろ、こいつ)
俺は小さく息を吐くと、ローテーブルの前に座るのではなく、ソファの端っこでガチガチに固まっている彼女の、すぐ隣に腰を下ろした。
「あっ……み、湊く……っ」
「あのな、ひより」
俺は、膝の上で震えている彼女の小さな手を、自分の大きな手でそっと包み込むように握りしめた。
「ひゃうっ!?」
「言い訳がなくなったからって、お前がお前じゃなくなるわけじゃないだろ。……むしろ、逆だ」
俺はじりじりと距離を詰め、彼女の肩に自分の肩を密着させた。
フローラル系の甘い香りが、俺の鼻腔をくすぐる。
「今日からはもう『ただの隣人だから』なんていう、安い建前は必要ない。お前は俺の『彼女』なんだから、誰に遠慮することもなく、俺の隣で好き勝手していい特権を持ってるんだよ」
「か、彼女の……特権……?」
ひよりが、潤んだ瞳で俺を見つめ返してくる。
「そうだ。ソファの真ん中でゴロゴロするのも、俺に抱きつくのも、全部『彼女だから』で許されるんだよ。……ほら、いつもみたいにくっついてこいよ」
俺が意地悪く、少しだけ挑発するように微笑んで腕を広げると。
ひよりの顔が、ポンッ! と音が鳴りそうなほど真っ赤に爆発した。
「〜〜〜〜っ!!」
彼女の脳内のキャパシティは、完全に限界を突破したらしい。
「み、湊くんのばかぁぁっ! かっこよすぎますっ! 刺激が強すぎますぅぅっ!!」
ひよりは可愛い悲鳴を上げながら、ロボットのような動きのまま俺の胸の中に飛び込んできた。
そして、俺のシャツの胸元をぎゅっと握りしめ、真っ赤な顔をぐりぐりと押し付けてくる。
「……ははっ。やっぱり、お前にはそのポンコツな距離感が一番似合ってるよ」
「ポンコツって言わないでくださいぃ……っ。私だって、ちゃんとした大人の彼女になろうと……っ」
「ならなくていい。俺は、俺の部屋で一番くつろいでる、お前のその無防備な顔が好きなんだから」
俺が彼女のサラサラとした金色の髪を撫でてやると、ひよりは「うぅ……っ」と身悶えしながらも、俺の腕の中で少しずつ力を抜き、いつもの蕩けるような笑顔を見せ始めた。
「……じゃあ、彼女の特権、使ってもいいですか?」
「ん? なんだ?」
ひよりは俺の胸元から顔を上げ、上目遣いでローテーブルの上の皿をチラリと見た。
「今日のオムライス……湊くんから、『あーん』して食べさせてほしい、です……っ!」
その顔はまだ少しだけ赤いけれど、そこにはもう迷いはない。
ただひたすらに甘くて、幸せに満ちた、俺の自慢の『彼女』の顔だった。
「……仕方ないな。今日だけ特別だぞ」
俺は苦笑しながらスプーンを手に取り、玄米のオムライスを一口分すくって、彼女の小さな口元へと運んだ。
秋の日差しが差し込む、202号室のリビング。
言い訳という殻を破り捨てた俺たちの、果てしなく甘くて、限界突破の『同棲生活』が、今、本当の意味で幕を開けたのだった。
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