第2話 光に焦がれる影
新宿、公式勇者ギルド『G—プロモーション』本部の最上階。防音完備の控え室に入った途端、Sランク勇者・レイは洗面台に縋り付き、どす黒い血を吐き出した。その
「……っ、ハァ、ハァ……」
震える手で、ラベルの剥がされたボトルから数錠の鎮静剤を流し込む。公式が「浄化」と呼ぶ奇跡の代償は、すべてレイの肉体が引き受けていた。彼は人々の期待を燃料に、自らの命を削って発光し続ける都会の『生贄』に過ぎない。
「レイ様、収録まで残り十五分です……まだ、『光』は出ますか?」
ドア越しに響くマネージャーの事務的な声。レイは鏡の中の死人のような自分を、黄金の
「……大丈夫だ。僕は、まだ笑える」
その直後、大型ビジョンには「シャイニング・スマイル」を浮かべる彼の姿が映し出され、深夜の街を嘘の輝きで満たしていった。
◆◆◆
パレードの熱狂が去った新宿のメインストリート。九条蓮は、アスファルトの上で
『レンさーん! カメラもっと寄せて! ほら、視聴者が「公式の
「……。サキ、仕事の邪魔だ。さっさと座標だけ送れ」
『冷たいなあ。今、同接八百人ですよ? スパチャで電池代稼がなきゃいけないの、どこの誰でしたっけ?』
蓮の視界の端、コンタクトレンズ型ディスプレイに流れるチャット欄が、深夜の静寂をかき乱す。
【ライブ配信:閲覧数 812】
鑑定士: 出た、レイの浄化の残りカス。
光アレルギー: あんな広範囲に魔力を撒けば、そりゃ変異もするわ。公式は後のこと考えなさすぎ。
掃除屋見習い: 九条、レンジの周波数上げて剥離しろ。癒着が酷いぞ。
「……分かってるよ。板バネの電池代も馬鹿にならねえしな」
蓮は、ガムテープで補強された武器のスイッチを入れた。レンジのマグネトロンが咆哮し、右腕に暴力的な超振動が走る。
地下流剣術:『
一閃。剣先の高周波が紙吹雪の癒着を剥ぎ取り、内部に溜まった「負の感情」だけを熱で焼き飛ばす。
「派手な
◆◆◆
不快な電子音が止んだ時、背後から圧倒的な光(物理)が溢れた。振り返ると、そこにはパレードの後始末で戻ってきたレイが立っていた。黄金の光を放つレイと、血と塩素の匂いを漂わせる蓮。
「……君。その腕、もう限界だろ」
レイは、蓮の持つ不格好な「板バネ剣」を見て、憐れむように言った。
「そんなガラクタを振っていれば、神経が焼き切れる。……君に、もっとまともな武器があれば……」
「うるせぇ黙れ。お前こそ、無理に輝けば、足元の影が濃くなるぞ。……あと、その光、眩しくて迷惑だ。俺の電気代の三倍は無駄が出てる」
蓮はレイの顔も見ずに言い放ち、レイの背後に忍び寄っていた怪物の残党を、振り返りもせずに一瞬で消滅させた。
【ライブ配信】
匿名: きた!電気代の無駄w
深淵の住人: 公式一位に向かってよく言う。
スパチャ(¥1,000): お前ら見たか?レイの顔、一瞬固まってたぞw
レイが見たのは、剣の鋭さでも、熟練の業でもなかった。それは、あまりに長く孤独な夜を凝視し続けた結果、その瞳の奥に「闇」そのものを宿してしまった者の眼差し。まばゆい光の祝祭が続くその裏側で、誰にも見つからず、ただ静かに、そして限りなく深く沈殿していく「都会の影」――その正体を、鏡越しに突きつけられたような、そんな気がした。
「サキ、配信を切れ。公式に見られた。これ以上、始末書を書かされるのは御免だ」
蓮は、雨の降り出した街の闇へと消えた。神奈川郊外への帰路、改札で残高不足に捕まりながら、彼は右手の甲の剥奪
「……。やっぱり、
光の生贄と、闇の掃除屋。二人の孤独は、都会の夜を静かに
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