第70話、《ケルビム戦》壱

 ケルベロスの口から放たれる雷。それが四人の後方に放たれ、雷の柱を打ち立てた。これでカリッジギルドは後ろには逃げられない。


 そこに向かって犬は大きく口を開いた。


「ここは俺が防ぎます。みんなは逃げて下さい!」


 ムトーが前に立った。


【ムキムキ!】



 放たれる雷。電撃が彼を襲う。


効化――!】



「効かないぜ。多くの人をしびれさせてきた俺には雷なんてでもない。聞くか、犬よ。俺はボディビルで観客全員を電撃の渦に巻き込んだことがあるんだぜ。」



 何故かポージングをしながらドヤ顔で言い放つ。何を言ってるの? この人は……。



 今度は氷が放たれた。

【無効化――!】

 しかし、それも全く効いていないようだった。


「俺の筋肉はなぁ、冷蔵庫って言われてんだ。こんな中途半端な冷たさじゃ、冷蔵庫の俺には効かないぜ。」


 本当に何を言ってんの、この人――。



 最後に放たれたのは炎だった。

【無効化――!】

 それもまた効いていないみたいだ。


「俺の体は激しく燃えてるんだぜ。効くわけないよなぁ。炎ぉ!」



 よく分からないけど、ムトー強い。

 まぁ、タンク役として、しっかりと殿しんがりの役割を果たしていると思えば、尊敬の意は抱けるかも知れない。

 いや、やっぱりあの筋肉の人に尊敬を抱きたくはないな。


 

 突然、周りを囲うように現れる一軒家ぐらいの大きさの塔。それらがカリッジギルドの逃げ場を奪う。


「俺はまだまだ輝ける。あの犬の攻撃は俺には効かない。みんなはその間に上手く逃げ切ってくれ!」


「流石、うちらのエースやね。」


 彼女らは希望に満ち溢れていた。



「逃がしはしませんよ。あなた方には実験の被験者となって貰うのですからね。」



 怪しい男の仕業だ。よく見ると手には塔のミニチュアみたいな物を持っている。それによって塔を繰り出したのだろう。

 よくみるとその彼がアナココを踏みつけている。何とかして救出したい。



「やはり、ルールの防御力アップが効いているのでしょうかね。ひとまず必殺技を放ってください。」



 犬が同時に、炎、雷、氷を合わせて放った。全てが組み合わさると色が黒く濁り、黒い旋風が巻き起こる。


 地面がえぐれながら進んでいく。


【無効――】化?


 あのムトーもその攻撃には耐えられなかったのか、旋風を受けて消えてしまった。



「ふむ。必殺技なら、これ程の威力が出るのですか。最大威力はそこそこですね。ですが、最大の魅力はケルビムは必殺技を何発も撃てること。攻撃回数を計りたいですし、耐久実験と言うことで、持てる力を放ちましょうか。」



 犬の雄叫び。

 周りに現れる強烈な竜巻たつまき


 それらが辺りを蹴散けちらしていく。



 チャキンッ!



 ズワイガニがいつの間にか少し離れた所で観察をしているジェノムの所に来た。


「終わりぃ。」


 ズワイガニの鋭い鋏が向かっていく。



「邪魔です。」



 周りに建てられた塔が消えた。代わりに、新たな塔がジェノムの近くに現れ、その塔の先端がズワイガニを穿つらぬいた。何の能力だろうか。


「ふむふむ。今度はあなたはおとりになった訳ですね。こうすれば、私は塔を引っ込ませなければなりません。その隙に二人を逃せる訳ということですか。」


 穿うがつ攻撃にズワイガニは人間の姿に戻っていく。


 ニッ。彼はニッコリと笑顔を浮かべてピースサインを取った。そして、ズーモスはリタイアしてしまった。


「してやられたのは不愉快ですが、運はこちらについてきているみたいで、良かったです。」


 

 木に隠れながら様子を、そしてチャンスをうかがっていく。



 一方、離れた位置ではカリッジギルドの二人が逃げるように走っていた。


 

【ヌンチャク!】



 ヌンチャクを味方のアテナに向かって放ったヌユは、そのまま遠くへと投げやった。

 ヌユの所を襲う黒い旋風。ヌユは消えた。



 黒い嵐が収まった。



 いつの間にかケルベロスは、異様な力をまとっていた。一匹は赤色、一匹は青色、一匹は黄色のオーラを纏っている。


「これが第二モード。データ上では確認できたのに実験では一度もなし得なかったパワーアップモード。さぁ、その力を見せてください。」


 ジェノムは怪しく笑っていた。


 今なら隙がある。


【自分自身】【重火器】【重力】


 いつもの重火器振り回す攻撃で後ろから横に振り回す。



 直撃。そして、軽く吹き飛ばす。


「アナココさん。逃げるよ。」


「俺、もう動けない……。」


「弱音吐かない! 行くよ。」



【磁力――!】



 私は後ろに引き寄せられる。

 ジェノムだ。彼が手を前に出している。そして、彼自身N極となって、私をS極に変えて引き寄せている。


 その事実は、この能力を使える人しか知り得ない情報だ。


 私達の距離はすぐ近くとなった。



【磁力!】――【磁力!】



 彼は私をN極に変えた。それを受けて、私はその反発力を上昇させた。


 お互いに『じ』の文字の能力者。


 同時に放つ磁力攻撃――私達はお互い遠くに吹き飛ばされた。


「このままエリア外に出るよ。」


 足が震えかけてるアナココに鞭を打って走らせた。

 まあまあ距離が空いた。ひとまずよく見ると青く染まったエリアの外へと逃げ出した。

 私達が手に入れた真ん中のクリスタルはケルベロスによって、青く変えられていたみたいだ。ルールによって、そのエリアにいたら、すぐにアルカナギルドに位置がバレる。だからこそ、今はここから逃げるしかない。


 

「ひとまず様子見ね。今は息をひそめてチャンスが来たら、参戦するよ。」


「俺、もう疲れたんで、寝てていいですか?」


「寝るな! 今のうちに休んどけ!」


 アナココのやる気のなさに少しイラつきかけた。



「あんな怪物が相手じゃもう勝てないですよね。」


「そんなことないと思う。だって、あの怪物を倒しに私達の怪物が向かってくれてるからね!」


「俺らの……怪物?」



 空を見ればすぐに分かる巨体。そこには大きなドラゴンが舞っていた。


 

 ドゥムドゥムドゥムドゥム。



 独特なビートが鳴り響く。


 空は曇天になっていく。



「ひとまず状況整理ね。よく聞いてね。」


「あー、おけ。」


 残ってるのは、

 ヴァリアントギルドは四人全員。

 カリッジギルドはアテナだけ。

 アルカナギルドはケルビム、ジェノム、ユーヒメ。


  

 真ん中にはケルベロス――ケルビムがいて、その付近にはリュウジャスとアテナがいる。少し離れた位置からジェノムが様子を眺めている。


 さらに、遠くで私とアナココが様子を見渡している。


 ユーヒメは少しずつ真ん中へと進んでいると推測してる。ひとまず分かることは、アルカナのスタート位置から真ん中の間にあるヴァリアントギルドのクリスタルの位置へと来て、クリスタルを破壊したことだけ。


 

「気を抜かずに、チャンスを見極めるよ!」

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