主人公が大成功してお金持ちになるわけでも、圧倒的な力を手に入れて無双するわけでもない。
それでも主人公と、主人公を取り巻くこれからが気になって、つい次の話を読んでしまう。
そこからはもう作者の手の平の上。良いように感情を揺さぶられながら読み進めていけば、最後には綺麗なエピローグまで持っていかれました。
そして読み終わって感じたのは、今作には作者の「これがしたい」「これを見せたい」という意思がかなり強く込められているように思えたことです。
奇抜な設定だけで引っ張る作品ではなく、その設定を使って作者がどこまで読者を連れていけるのか、そんな挑戦のようなものも感じました。
読み始めたときには、まさかこんなところまで連れていかれるとは思っていませんでした。
面白かったです。
毎話毎話、読めば読むほど、
「どうか、どうか幸せになってくれ……せめて、不幸せにならないでくれ……」
と、思いつつ、更新分を読み終わりスクロールを進めると見えてくるタグの
【ディストピア】【世界大戦】【核戦争】【崩壊世界】
で胃がキリキリしてくる毎日でした。ですが本日完結を迎え、これ以上、これ以上ない結末に、また泣いてしまいました。最高です、間違いなく傑作です。
一発ネタのゲラゲラわっはっはなヤツでしょ、なんて、タイトルと説明文を読んだ人は思うでしょうし、実際、作者さんはそれを狙った部分もあるでしょう。ですが……ですが。
ここにあるのは間違いなく、当たり前すぎる、ストレートすぎる生命賛歌です。テーマとしてはおよそ、童話の中にあるような、ジュブナイルで謳われるような、陳腐とさえ言えるものが、ネット小説の形の中で、見事に新生しています。
必要にして十分な、センチメンタルに行き過ぎない描写と、それでいてドライになりすぎない小説として完成された文章。冷徹でいて決して突き放してはいない、わずかの暖かみがある作者の視線。どこか海外の傑作生物ノンフィクションを彷彿とさせる文体。そこで紡がれるのは、果たして生命とは、知性とは、文化とは一体なんなのか、その必要条件と十分条件はなんなのか、そういったビッグクエスチョン。ですが……ここからは私見ですが、おそらく作者さんが本作を書いた狙いの一つは
「はたして読者に、ゴキブリに感情移入をさせることはできるのか?」
ではないでしょうか? もしそうなら……いやそうでなくとも……私は、やられました。冒頭で書いた、幸せになってほしい、せめて、不幸せになってほしくない、そう思っていた相手は、主人公であり、ヒロインであり、そしてその二人と同様に、ゴキブリたちでした。
真顔のまま世界一面白いジョークを言われていたかと思ったら、気がついたら心臓をグサリ、一突きされている。そんな傑作小説です。