第10話 雷炎の銀華
試し切りのあと、二人は一旦解散し、正午に北門で待ち合わせとなった。ユフィリアは準備万端だったが、リオンは事務手続きだけのつもりだったので何の準備もしていなかったからだ。
リオンは宿屋に戻ると大将にしばらく留守にする旨を伝え、探索の物資をいくらか分けてもらい、手早く準備を済ませ、北門に向かった。
すると北門に少し人だかりができていた。
「おい、あれAランクのユフィリアだぜ」
「……雷炎の銀華がなんでこんなところに」
「美しすぎる……」
「可憐だ」
「なんでギランに銀華がいるんだ」
どうやら遠巻きにユフィリアを見定めているようだ。
リオンは彼女がこんなにも有名人だとは知らなかった。
「……声掛け辛っ」
そう独りごちながらも、リオンは彼女の元へ赴く。
「ユフィリア、待たせたな」
「構わんよ」
リオンが彼女に声をかけると、ユフィリアが彼に微笑みを返し、周囲に騒めきが広がった。
「おい、なんでハズレ属性が」
「何だあいつ、気軽に雷炎の銀華に声かけてんだ」
「あいつ、ユフィリア様のこと呼び捨てにしてなかったか」
「なんであんなおっさんが銀華と!」
「おっさん、なんか勘違いしてるんじゃないか」
リオンも別の意味でなかなかの有名人で、野次馬は彼に容赦のない言葉を投げつけた。
そんな周囲にユフィリアは不機嫌そうな顔になり、リオンに尋ねた。
「ハズレ属性とはなんだ?」
「ああ、俺は音属性なんだ」
「音属性?」
思わずユフィリアは目を丸くする。もちろん彼女の認識でも音属性はハズレ属性だ。
「まさか、さっきのあの神技は、もしかして音属性でやったのか?」
「神技かどうかはしらんが、そうだよ。ハズレ属性って言われてるが、正しく知ればそれなりに使えるんだ」
「……そうだったのか……私も知らなかった」
「まあ、いくか」
「そうだな」
二人が歩き出すと。
「おい、おっさん、お前、ユフィリアさんに何絡んでるんだ?」
二十代半ばぐらいの、立派なハーフアーマーに身を包んだ剣士風の男がリオンに絡んできた。
「いや、絡んでねえし」
「じゃあなんでおっさんが、ユフィリアさんと一緒にいるんだ」
「いや、普通に依頼受けただけだし」
「依頼だと? お前みたいなハズレ属性に何を頼むってんだ?」
男は下卑た笑いと共にそう吐き捨てる。野次馬も呼吸を合わせるようにリオンに嘲笑を浴びせた。
「下がれ下郎」
ユフィリアはそれが気に入らなかったようで、短く切り捨てると男に鋭い眼光を向ける。
「ひっ!?」
男は突然向けられたユフィリアの圧に思わず気圧された。
「まあまあ、そういうことだからな」
リオンは険悪——というよりは一方的に威圧される男とユフィリアの間に入り、その場を収めようと試みるも。
「だからお前はなに調子に乗ってんだよ!」
リオンの気遣いは彼には通じなかった。
「絡んできてるのはお前だろ? 俺は調子に乗ってないしユフィリアにも絡んでない。お前はなにがしたいんだ?」
もっともな言い分だった。だがそれも彼には通じなかった。
「お前! なにかユフィリアさんの弱みでも握って脅しているんだろ!」
男の言葉にリオンは思わず呆れ顔になる。
「いや、どこでどうなると、その考えに至るんだ?」
「お前みたいな役立たずのハズレ属性が、彼女に依頼されるはずがないだろ!」
「……そうか」
リオンは大きくため息を吐き、後頭部を掻く。
「ユフィリア行こうか」
相手をするのが面倒になったリオンは、事態の収束を諦め先に進むことにしたが。
「だから待てよ! おっさん!」
男はリオンの肩を掴み、力ずくで妨害する。
「貴様いい加減にしろよ!」
ユフィリアが男を一喝するがリオンがそれを手で制す。
「なあ、これ以上は迷惑だ。ここで下がらないなら俺にも考えがある」
「あ、どんな考えがあるってんだ!」
埒があかないと思ったリオンは彼の頭髪に指先を向け。
「あちちちち……っ!」
燃やした。
「さあ、行こうか」
「……あ、ああ」
そして頃合いを見計らって、それを凍らせた。
「お前は少し、頭でも冷やしてろ」
リオンが背を向けて歩き出すと、男が恐怖で自分の頭を抱え込んだ。その瞬間、凍って脆くなった髪の毛がボロボロと音を立てて崩れ落ち、地面を黒い粉で汚していく。
野次馬は何が起こったか分からずに、二人の進行方向の道を開けるのであった。
道すがらユフィリアが尋ねる。
「なあ、さっきの彼の髪を燃やしたのはどうやったんだ? 無詠唱だっただろ? リオンは火属性魔法が使えるのか? その後凍らせてただろ? 氷属性まで使えるのか?」
「ああ、あれも音属性魔法だよ」
「あれが音属性? だが燃えてたぞ? 凍っていたぞ?」
「うーん、なんて説明すればいいかな。俺の魔法はな事象を発動させる必要がないんだ。どちらかと言うと事象に作用させているだけなんだ。だから詠唱も必要としないし、少ないマナでああいったことができるんだ」
ユフィリアは説明を受けてなお怪訝な表情を浮かべる。魔法というスピリチュアルな概念が当たり前のオーリカでは彼女の反応こそ正しいのだ。
リオンは道端に落ちている小石を手に取った。
「実はなこの石って振動しているんだ」
「……は、何を言っている? 振動なんてしていないぞ」
「目には見えないけど、小さく振動しているんだよ。それでな、その振動を止めてやると」
リオンは音属性魔法で振動を止めた。
「凍る」
ユフィリアは凍った石を目を丸くして見つめる。
「それでな、その振動を超加速すると」
リオンは石を上に軽く放り投げて音属性魔法で超加速させた。
「燃える」
ユフィリアは燃える石を目を丸くして見つめる。
「まあ、そんな感じなんだ」
「ずるい! 何だその反則技は!」
ユフィリアがリオンの話を正しく理解できたかは分からない。
だが正しくリオンの実力と音属性魔法の有用性は理解できたようだった。
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