名も知らぬ君へ
都筑嘉数
K君 162cm、49kg、29歳
日曜に会った男、多分二度と会うことが無いだろうってくらいココロに来る方だった。顔も、身体も、声も、匂いも。全てが僕のタイプで、こんな人と接吻をして、扱かれるのは、今年一番の幸せな出来事なんだと思った。エロから始まってこんなセンチになるんだと戸惑っている。
彼にとって僕はただの行きずりの男なのでしょう。今後一生を拘束する関係になる可能性などゆめゆめ抱くべきでは無いんだが、どうしても想起しては、胸にぽっかりと穴が空いたかのような哀愁で鬱屈な気分に陥る。本当に素敵な方。もっとより深く知りたい。なのに、行きずりの関係がそれを不可能にする。
LINEもXも、全て知らない。名前も知らないから、調べようが無い。そばにいて欲しい、また会いたい、でもそれはもはや叶わない。今も同じ県、下手したら同じ市にいるだろう。物理的にはこんなに近くにいるのに、まるで黄泉に渡ってしまったが如く、遠く離れ離れになってしまった。後悔に苛まれている。
良い体になりたい→鍛えよう
聡明に話したい→勉強しよう
良い声になりたい→鍛えよう
スーツを着たい→転職しよう
記憶にしか残っていない、理想だった彼に会うには、僕自身を彼に擬態させれば良いのだろうか。
なんというか、キャバ嬢にゾッコンになるおじさんの気持ちが、漸く理解った気がする。商品であったり、行きずり一夜限りの関係であったりするのに、なぜ好きになってしまうのか。それは、自身を酷く特別視してしまうからだろう。要は、恋によって盲目になったのだ。
他のお客さんや付き合った男は、もうこれっきりなのだけれど、僕だけは違う。またいつかは分からないが、きっと会える。そして、根拠はないがきっと結ばれる。そういう考えに支配されて、良くない確信を持っている状態にあるのだろう…
きっと会える、結ばれる。そんな戯言は、僕らの関係性からして、間違いなく実現できないのであるし、それをココロの中の理性的な自分は理解しているはずなのだけれど、分かっているからこそその盲目な状態に逃げ込みたくなる。その二考がせめぎ合い、精神を疲弊させる。ますます会えない彼を好きになる。
とても虚しい営みなのだけれど、抜け出したくても、どうやって抜け出せば良いのか本当にわからない。仕事の間も、友達と遊んでいる時も、食事やお風呂の時はもっと、あれこれと考えては悶々としている。何度も会ってきた他の男についてそうなれたら、どれほどココロが楽になっただろうか。
自分の気持ちを整理するために、あれこれ言葉を紡いでみたけど、涙が出てきてびっくりした。僕ってこんなに弱かったんだ、この痛みが恋なんだ。こんな形で知りたくはなかった。もっと楽しく、後味の良い知り方だったらどれだけ良かったか。
今はもう会えない君へ。
名も知らぬ君へ 都筑嘉数 @averageman216
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