第23話 「外の力」
一時保護所の面談室。
白い机を挟んで、三人。
透。
市の相談員。
そしてもう一人、見慣れない男。
スーツ姿。無駄のない所作。
年齢は四十前後。
「はじめまして」
男が軽く頭を下げる。
「弁護士の佐倉です」
透は一瞬だけ相手を見る。
(来たか)
相談員が補足する。
「野間さんから紹介があってね」
透の目がわずかに細くなる。
(あの人、そこまで繋いでるのか)
ただのホームレスじゃない。
外のルートを持っている。
「まず確認させてください」
佐倉がノートを開く。
「動画の原本、まだありますか?」
「あります」
即答。
「コピーは?」
「三つ」
一瞬、空気が止まる。
「……三つ?」
「保管場所は分散しています」
相談員が小さく息を吐く。
「誰に教わったの、それ」
「必要だからです」
同じ答え。
佐倉はわずかに笑う。
「なるほど」
それ以上は聞かない。
「では、この件は証拠として十分です」
ページをめくる。
「今後の流れですが」
声が変わる。仕事の声。
「継父については、刑事案件の可能性が高いです」
透はうなずく。
「暴行、傷害。状況次第ではさらに重くなります」
一瞬、間を置く。
「母親については、不作為が問題になります」
透の視線が動く。
「止めなかった事実は、判断材料になります」
「分かっています」
短く答える。
佐倉はうなずく。
「もう一つ」
ノートを閉じる。
「あなたはどうしたいですか?」
透は少しだけ考える。
「元に戻すつもりはありません」
迷いはない。
「関係は終了しています」
感情ではなく、結論。
佐倉の目が細くなる。
「……分かりました」
「その前提で進めます」
それで話は終わる。
一方、神代奈緒。
家に戻っていた。
静まり返った部屋。
音がない。
椅子に座る。
力が抜ける。
「……透」
名前を呼ぶ。
返事はない。
当たり前だ。
ふと、思い出す。
小さなノート。
透が唯一大事にしているものだった。
ぼくはなぐられた
おかあさんはみてた
おかあさんはとめなかった
息が詰まる。
(違う)
違わない。
(いつから……)
胸が締め付けられる。
「……ごめん」
誰にも届かない言葉。
遅すぎる。
一時保護所。
透は椅子に座り、ノートを開く。
書き足す。
法的対応:開始
弁護士:確保
一行空ける。
ペンが止まる。
そして、書く。
医療:確保
行政:連携済
法律:着手
残り:警察
ペンを置く。
(これでいい)
順番に。
外から固める。
逃げ場は、もうない。
透は窓の外を見る。
空は変わらず青い。
(次だ)
焦らない。
積み上げる。
「全部、潰す」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます