第3話 最初から、選択肢は無かった
学生は夏休みが始まる季節。
扇風機で長い髪を乾かしながら結は勉強をしていた。
スマホのなる音がする。
画面を見ると誠の表示。
また暇つぶしかなと思いながら結は通話を選択する。
「カラオケ行こう。今度の土曜。」
いきなり決定事項のような言葉。
でも、しっかり線は引く。
「健太も来るから。」
『二人じゃ…ない。』
ため息をつきそうになる。
『続きじゃない。』
期待しているのは自覚していたのに、落胆は隠せない。
だって約束したのに。
でも、『NO』の選択肢は結には無い。
初めからそんなものは無い。
だから当然のように答える。
「わかった。楽しみにしてる!」
カラオケ当日の夜、何故か誠の家の最寄りのバス停を待ち合わせ場所に指定されて戸惑いを覚えつつも、空いたバスの座席に座り、暗くなった外の景色を眺める。
カラオケは繁華街にしか無い。
何故このバス停?
気になるが、思考は色々な方向に散り散りになりまとまらない。
それ以上は進んじゃ駄目、とどこかでわかっている。
バス停に着いたがまだ誠は来ていなかった。
いつも遅れて来る。
15分前に着くように移動してしまう自分も悪いが、誠は待たせることが当然かのように悠然と現れる。
今日もそうだった。
そして周りに人はいなかった。
一瞬の期待。
「健太はバイト終わったら合流するから。」
誠の言葉によって期待は脆く崩れる。
「先にカラオケ行くの?」
それはそれでいいかもしれない。
誠はバンドのヴォーカリストだけあって歌が上手いし、選曲は結の好きなジャンルばかりだ。
私だけの為のライブ。
悪くない。
「いや、俺徹夜明け。少し寝かせて。」
『なんで今日にしたんだろう。』と思いつつも、二度目の誠の私的空間へ向かう。
誠の家に向かって歩き出すが会話がいまいち続かない。
ただ、空気は自然なままだった。
「ごめん。ちょっと彩香ちゃんから電話。」
自分の唇に人差し指を当てながら、暗い夏の夜に溶け込むような微笑みを浮かべる。
静かな夏の夜にあの何かが割れるような音が一度だけ響いた。
彩香と話す誠の声だけを聞きながら二人で暗い道を歩く。
ふと『今ならまだ…』という先のわからない言葉が浮かぶ。
耳に届く誠の声が冷たく響くのを感じながらその先を考えようとするが、彩香に「もう家に着くから切るよ。」と言う誠の言葉にハッとする。
家はいつの間にか目の前にあった。
楽しい夜の始まり。
きっと。
結は決め付けるように首を軽く振り、誠の後を追って玄関をくぐる。
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