よろしくね


再び訪れた研究室。

リリアは迷いなく奥へ進む。

倒れたままの巨体。

砕けた床。

戦闘の痕跡が、そのまま残っている。


日向は歩きながら、リリアの背を見た。


白い髪。

しなやかな肢体。


——本当に、作り物か。


そんな疑問が、ふとよぎる。


その時。

リリアが立ち止まった。

元の身体が置かれていた場所。

装置に手を伸ばす。

光が収束し、人の形を成す。

現れたのは——


リリアの両親だ。


「どうしたんだい、リリア」


間を置いて、目線が後ろの二人を見る。


「こんにちは客さん」


「こんにちは」


運び屋は平然と答えた。


一連のやりとりを見てセレストは驚いたまま。


「…リリア、どういう事?」


「…えっとね、AIって言って」


「簡単な受け答えをしてくれるの」


運び屋を見ながら面白くない表情で言う。


「お父さん、お母さん」


「さっきの話し、もう一回してくれる」


「ええ、いいわよ」


母親が答える。


「まず思想設計についてー」


「お母さん!」


「難しい話しは今はいいから!」


「何故私への依頼が“今”になったのか話して」


やりとりは親子そのものだ。


「…そうね、リリアちゃんの身体ね」


「貴方の身体を作るのには困難を極めたわ」


「骨格となる部分は正直大変ではなかった」


父親が引き継ぎ


「だが、母さんがこだわった」


「“人としての機能”を統合させるのに


時間を有した」


「そう!効率は良くないけど


食事も取れるわよ!」


少し誇らしげに母が言う。


「他にも色々あるけど、


紙の資料のが早いかもね」


そう言いテーブル辺りを指差す。


一間


「一番の問題はリリア」


父親が話しだす。


「君自身を通していない事か」


空気が少しだけ変わる。


「私たちはこの技術を」


「時の為政者に知られるのを恐れた…」


「…だから表には出せなかった」


母が静かに話しだす。


「ごめんねリリアちゃん」


「上手くいくはずだけど…」


「迷惑をかけるかもしれないわ」


父親が引き継ぐ。


「おそらくだがリリアが起きる頃でも」


「リリアと同程度の技術力は」


「この都市に無いだろう」


セレストは思い出す。

この街で見たロボットたち。

——確かに、ここまで人に

近いものはいなかった。


「この都市の人間に知られれば」


「リリアの身が危険になるかも知れない」


「それは私たちが望むものではない」


視線が運び屋とセレストに向く。


「もし後ろのお二人さえ良ければ…」


父と母は姿勢を正し。


「娘の力になってやってください」


父親が言う。


「リリアちゃんをよろしくお願いします」


母親が言う。


言うと同時に光の像が虚空へ消える。


ー静寂


「……っていうことなの」


リリアが少し照れたように言う。


そして。


「だからね日向君」


少し俯きながら


「私も着いていったら…」


「ダメ……かな?」


不安そうに尋ねる。


「勿論、無理にとは言わないよ!」


リリアは矢継ぎ早に喋る。


セレストはそっと運び屋を見る。


運び屋は一瞬キョトンとして。


そして笑った。


「さっき言いましたよ」


「できる事なら何でもするって」


ニッと笑い。


「一緒にいきましょう、お嬢さん」


一瞬。


リリアの顔が、パッと明るくなる。


だが、すぐそっぽを向いて。


「まー断れても」


「私“出世払い”しないといけないし!」


「無理矢理にでも着いて行くけどね」


少し顔を赤らめながら。


セレストは苦笑する。


「そ・れ・に」


「二人とも私みたいなナイスバディと


一緒で嬉しいでしょう」


リリアは挑戦的な目で見る。


一間置いて


「僕は普段の生活でそんなには……」


セレストが申し訳なさそうに言う。


リリアは運び屋を見る


「そっすね、大変素晴らしいかと…」


少し考えて。


「ただ…尻が大きい方が好みかな」


運び屋はシレッと言う。


ーー次の瞬間


リリアが笑顔のまま距離を詰める。


自然な動作で胸ぐらを掴み、


軽く持ち上げる。


「ウ・レ・シ・イ・ヨ・ネ?」


「い」


「イエッサー!閣下!」


ゆっくり下ろされる。


むせながら。


(な、なんでワイだけ…)


「ふふ」


リリアが笑う。

両手を後ろで組み。


「じゃあ、改めて」


「よろしくね」


満面の笑みだ。

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