物語は、閉ざされた空間から始まります。
物理的な閉塞感が、主人公の閉ざされた世界をも表しているようです。
抽象的な状況説明のなかで暗示された性的搾取。
それを正当化する男の虚しい言葉が、残酷な世界を読む者へつきつけます。
おそらく彼女は、都合よく使われるだけの存在。
なんの権利もなく、社会に顧みられない存在なのです。
そして、物語は転機を迎えます。
大きな救いは、ありません。
ただ、存在を認める人が表れただけ。
たったそれだけのことで人が救われることがある。
ささいなきっかけで人は闇の中で光を見るようになる。
物語は、そう語りかけます。
新しい生活を始めた主人公の一年間にも、劇的な奇跡はありません。
地道で現実的な努力を積む暮らし。
勉強、実習、不安、焦りそんな毎日。
でも彼女は、その生活を続けられたのです。
〝平凡って、本当に、難しい〟という彼女の言葉。
誰かにとって当たり前の毎日が手に入らない人がいるのです。
それでも誰もが持つ平凡へと手を伸ばそうとしている人がいるのです。
平凡に辿り着くまでに長い道のりをかける人がいるのです。
平凡な日々のなかで埋もれること。
希望や優しさや思いやり。
そのほとんどは、小さくて見失いそうなこと。
だけど確かにある、光のようなこと。
そんな光が読む者へも差すような、優しい物語です。
一読されることをお勧めいたします。