いちばん印象に残ったのは、レモネードの二缶が「時間を追うごとに重くなる」と例えられているシーンです。
あれがそのまま、春香の言えなさや罪悪感の重さに思えて、読者として非常に実感がわきやすかったです。
全体は静かな別れの場面なのに、読んでいると最初からずっと春香の中ではもう別れが始まっているんですよね。
颯太は変わらずやさしくて、未来の話まで自然にしてくれる。そのやさしさに春香が甘えながら、同時にそこから逃げようとしている感じが苦かったです。
とくに「やりたいことがある」「遠距離は無理」という言葉が、本心というより自分を切り離すための嘘として響いて、ただの別れ話ではない痛みがありました。
最後の、嘘と別れを肥やしにして咲けるだろうか、という締め方もすてきです。
前向きな旅立ちのようでいて、そこにちゃんと迷いや後ろめたさが残っている。
静かな文体のまま、きれいごとでは終わらないほろ苦さを残す一作でした。