第23話

「そんで、第二騎士団で俺の仕事こなすにあたって問題になりそうなことはあるか?」


 こういう所マメマメしいなと思いながらアルフォンスは暫し考え込む。団長も副団長も協力してくれるのなら然程問題はないだろうし、予算不足をなんとかしようと言う試みなら反発もなく団員は協力してくれそうな気がした。


「あ、王妹殿下」

「あぁ?」

「俺のこと護衛騎士にしたいって煩い。アレって近衛がなるんだよね?近衛に上がったら魔物討伐できないし、辞令がでたら二年は無理かもしれない。その辺は団長とかで突っぱねられる?」

「近衛に上がるのには最低半年は他の業務に従事する必要があっけど、あんなの早々に上がれねぇよ。けどまぁ……二年連続優勝の肩書もあるし声はかかっかもしんねぇな。そんときゃ団長と副団長に任せとけ。アイツらも使える手使って拒否するだろうよ」


 いわばアルフォンスの存在は第二騎士団にとって金を生み出す救世主である。おいそれと手放すことはないだろう。それでも宮仕えであるので限界はあるのだろうが。

 第一騎士団に入るなら推薦してもいい等とおせっかいなことまで王妹に言われていたので、王家からの圧力等も心配だったのだ。


「そんでも邪魔されんのは気に食わねぇな。この前もチョロチョロしてやがったしな。早々にコドクんとこ出荷すりゃいいのによ」


 家畜か何かと思っているのだろうかというような言い草であるが、アルフォンスも王妹にはいい印象がないのでそれを咎めることはしない。


「ちょろちょろって?」

「ウチに探り入れてた女が王妹の侍女だったらしくてよ。アリーセが止めたから首は刎ねなかったけど、王太子んとこ突き出した」

「……サイ様も言ってたけど、この屋敷って警備も防犯も情報統制もガッチガチだよね」

「アリーセいんだから当たり前だろ。手前ェ面倒臭ェのにばっか好かれんのな」

「ヒルダだけでいいんだけど。っていうかあの王妹殿下を花園に迎えたらサイ様大変なんじゃないの?」

「元々そういう連中のための花園だから問題ねぇだろ」

「は?」

「問題あるやつばっか集めてんだよ」

「……サイ様ってそういう趣味なの?アリーセ様正妻にしたいっていってたのに?」

「正妻は正妻。花園の花は所詮花ってこった」


 意味がわからないと言う様な表情をアルフォンスが作ったのもしかたないだろう。


「そのうち手前ェには本人が話すだろうよ。朋友なんだろ」

「……アレ直らないの?」

「矯正できるなら俺の狂犬呼びとっくに矯正してる。まぁ、あれはあれで悪い奴じゃねぇんだ。話長ェし粘着質なのは面倒だけどよ」

「割とグラナート様からサイ様への好感度が高いのに驚く」

「王妹の件はコドクと王太子に話は通しておく。そんでもどうにもならなかったら、出荷早めんだろ」


 好感度云々に対しての返事はなかったが、否定もしなかったのでアルフォンスの言う通りなのだろう。

 とりあえずはサイイドと王太子に投げるという事で話はつきそうだと安心はしたのだが、思わずアルフォンスは眉を寄せた。


「まだ心配事あんのか」

「そもそもヒルダって王城でなんの仕事してるの?」

「王城内に設置されてる魔具の保守点検と修繕、研究所の臨時講師だな」


 国王自体は魔具の開発はノイ伯爵に任せておけばいいと思っているようであったが、国中に魔具が行き届きミュラー商会とノイ伯爵家が莫大な利益を上げれば後追いしようとする貴族も出てくる。

 けれど尖った技術過ぎて模倣さえも難しいとなれば、その技術をかすめ取る為に、城の魔具の保守点検や修繕技術取得名目で魔具の研究所が発足された。


「図々しいね」

「ノイ一族としては別に技術の秘匿もしてねぇし、寧ろ保守や修繕で呼び出されるの怠いと思ったんだろうな。はじめは工房の人間が交代で講師してたんだけどよ……」

「上手くいかなかった?」

「気位の高ェ連中多いんだと」


 工房の人間は親方含めて基本平民である。研究所としては恐らくノイ伯爵を招きたかったのだろうが、あの性格なので面倒臭いと断固拒否したのはアルフォンスでも想像できる。


「保守点検や修繕技術より新型魔具の構想がどうとか言われりゃ、話が違うってなんだろ」

「っていうか、寧ろ基礎的な部分だよね保守点検って。魔具の構造知るのに手っ取り早いし」

「……手前ェみてぇなのが多けりゃ親方もブチギレなかっただろうよ」

「キレたんだ」


 そして講師に逃げられ結局研究所は国王に泣きついた。元々然程研究所の必要性を感じていなかった国王は、じゃぁ研究やめたら?等とあっさり言ったので、そこでようやく彼らは本来の目的である保守点検や修繕の技術を取得すると約束したのだ。


「そんで、アリーセにひっついて中央にいた鳥女が渋々引き受けた。一応保守点検・修繕位ェはできるようになったらしいんだけどよ、城にある魔具が多すぎて手が回らないって泣きつかれて、渋々鳥女が手伝ってる」

「渋々多すぎない?なんでヒルダ引き受けてるのそれ」

「はじめは一年で技術叩き込んで終わる予定だったんだよ。研究所の連中で城の魔具の管理できりゃ、自分含めて工房の人間が嫌な思いしなくていいならって思って引き受けたのに、研究所の連中が鳥女の予想以上に無能だったってこった」


 一番最初に工房の人間が交代で引き受けた時も呼び出し回避のためのいわば先行投資だった。


「……損切り下手なのかなヒルダ」

「俺だったら一年で区切って損切りだな。以降はどうしてもって言うなら割増料金吹っかけて研究所の後援貴族連中から搾り取る。けどよ、技術は金になるってノイ一族は理解できねぇんだ」


 ヒルダが見ず知らずの自分にポンと魔具を作って渡した事を考えればその辺りの感覚が希薄なのはアルフォンスも理解していた。討伐部隊の人間が乞えばいくらでも技術を教えてくれたのは、元々そういう人間の集まりだったからだろう。


「ヒルダが搾取されてるみたいでムカつく」

「搾取されてんだよ。だからそろそろ損切りさせようと思ってんだ」

「……アリーセ様が心配してる?」

「それもあっけど、研究所の連中が保守点検、修理ができないならミュラー商会通せばいい。普通の魔具はそうだろ。ウチに金が入る。義父がそろそろいいだろうって言い出してよ」

「あ、そうだね」


 ミュラー商会は魔具の製造はノイ伯爵領の工房にまかせているのだが、それとは別に品質管理、保守点検、修繕などそれぞれに特化した工房を作っている。

 そして人材はといえば、希望して入ってくるものもいるが多くは引退した辺境兵から引っ張っている。

 例えば片手が不自由でも品質管理はできる。例えば走れなくても修繕はできる。辺境伯とミュラー伯爵が協力して人材を集め、ノイ伯爵領の工房に頭を下げて教えを請うた。

 元々魔物討伐を引退した人間はのんびり工房で修繕作業などをして過ごすことが多かったノイ一族は、引退した辺境兵が主な人材だと聞いて好意的に指導をしてくれたし、再就職先を斡旋してもらえたと引退兵はやる気に満ちていた事もあり、こちらの方は研究所とは逆に人材が面白いように育っていた。

 そう考えれば研究所いらなくない?と一瞬アルフォンスは考えたのだが、商会の方に依頼をすれば当然金はかかるし、順番待ちである。その辺りを考えれば、真っ当に人材が育てば王城で魔具を扱える人間をというのは分からないでもなかった。


「副団長が半年位ェ前に鳥女がせっせと一人で魔物解体してるのに気がついたらしくてよ。流石にアレはないっつって俺に相談に来た。そん時丁度手前ェが連続優勝決めて第二騎士団の内定取れそうだったからな。今回の依頼の件提案したんだよ」

「はぁ?一人でやらされてたの?」

「それに関しては自分でやった方が早いとかあの女が判断したんだろうから俺はほっときゃいいと思ったんだけどよ。うっせーんだよ副団長が。手が空いてる時は手伝ったりしてたみてぇだけどよ」


 実際ヒルダにとって魔物解体は別に苦痛ではないし、寧ろ指導が面倒臭いと自分でやってしまっていたのだろう。けれどイラッとしたアルフォンスはグラナートに視線を送った。


「研究所いらないんじゃない?ヒルダにおんぶにだっこで図々しい」

「俺はない方が儲かる。けどミュラー伯爵家はノイ伯爵家と儲けすぎた。反発貴族の気が済むまで無駄金吐かせ続けりゃいい。たとえ研究所が魔具を独自開発できたとして、ノイ一族はその先を行く。魔具技術の研磨に生涯かけてる連中だからな」


 ヒルダの事は好きではないが、ノイ一族の性質と技術をグラナートは信頼しているのだろう。学生時代に自分同様、ヴォルフと一緒にノイ伯爵領の魔物討伐部隊に混じっていたと言う話も聞いていたアルフォンスは、きっとそこで彼もかの一族と接して知ったのだろうと思う。


「……損切り方法は?」

「早ェよ。ちゃんと手は打つから手前ェは心置きなく第二騎士団で俺の依頼果たして来い。鳥女も解体の手間はぶけて楽になんだろ」


 あぁ、この人は本当に人の急所を的確についてくる。ヒルダの心配など一ミリもしていない癖に、こちらのやる気をかきたてる言葉を吐く。そんな事を考えながらアルフォンスは頷いた。

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