第34話 集落を作ろう 後編

ダークエルフの家が建てられている区画へ駆け付けると、そこではちょっとした乱闘が起こっていた。


「だからっ、こんな家に住めるか!!――『火炎魔法』!」

「あっ、作ったばっかに何しやがんだエルフこのヤロー!!」


狐が創造魔法と幻を使って建てた小屋を、ダークエルフが炎で焼き払う。大工たちは怒り狂って相手に掴みかかった。周りの人も巻き込み、事態は手の付けられない方へ。

私たちは唖然として立ち尽くした。


「何これ……狐とダークエルフが戦うとこんなカオスな光景になるのね……。どれが幻でどれが魔法?」

「どうやら稲荷村式のを嫌がっているみたいなんだ。落ち着かないとかで」

「ふむ、まあ馴染みのあるもんじゃないと不安じゃろ」


対応に困りかねていると、エイデンが前へ歩み出た。


「こちらを見るんじゃダークエルフたち!」


目を吊り上げて鬼のような形相になっているダークエルフたちが一斉に振り向いた。

エイデンは両手を打ち鳴らし、地面に着ける。


「いくぞ――『聖樹建立』、じゃ!」


私の技能スキル『霊石建立』をもじった技名。それを叫ぶと、エイデンの腕から根が生み出され、するすると地べたを這って広がっていく。そして、エイデンがバンザイするのに合わせて魚のように引き揚げられたのは――巨大な樹。

いや、巨大な樹ではすまない。巨大な樹だった。


「これは、いつぞやのね!」

「そうじゃ、エルフが愛してやまない象徴シンボル、聖樹じゃ!」


エルフも狐も喧嘩を忘れ、唖然と大樹を見上げる。

どっしりとした幹に、翡翠石のように光沢がある枝。舞い落ちる花弁の形は鳥の羽。木の葉はこの場に集った全員を呑み込むほどに広い。

古来からエルフの血潮に染み込んだ信仰の対象が、そこにあった。


「お、おおー!聖樹だ!何故ここに!?」

「うそ!夢みたい…!もう一生見れないかと思ってたのに!」


ダークエルフたちから憤怒のオーラがきれいさっぱり消え、歓声が満ちる。

一瞬で和やかなムードに様変わりした。

狐の大工たちは安堵してへたり込みながら汗を拭っている。


「いやあ、助かりました……。手の付けられない怒りようだったので…」

「気にするでない。わしも前からずっと聖樹を植えたかったのじゃ」

「おにーちゃん、すごかった!もっと見せてみせてー!」

「おお、いいぞ。よく見とくんじゃ」


目をキラキラさせるダークエルフの男の子にせがまれ、エイデンは笑顔で手元の綿毛を吹く。

素っ裸だった野原が色とりどりの花で包まれた。花の絨毯はどこまで裾を広げ、浄化された土地を優しく覆う。世界樹の手技にあちこちで感嘆の声が上がる。


「すごいなぁ、巫女さん!倭村の花もあるんよ!この菖蒲とかどう!?」

「とてもきれいね。あらゆる地方の花が揃ってる……」

「そうじゃろ!わしは伊達に死の地で生きてきたわけじゃないんじゃ、各地を回っていろんな樹から種子をもらっておった。今やわしの体は植物の見本市も同然!」


さすが植物界のトップ・オブ・トップ、世界樹様だ。時たまこうして人間よりも上の存在だということを実感させてくれる。

……正直に言おう。エイデンが世界樹なことをすっかり忘れていた。


「童、この花好きだ。名前はなんという?」

「あ、その花きれいですけど中に動物の排泄物ため込むやつですよ」

「ぎゃー!?」

「扱いにはくれぐれも気を付けるんじゃ」


壺型の花をしげしげと眺めていたルティナが悲鳴を散らす。その周りではうら若い褐色肌の少女たちが花冠を作って遊んでいた。

なんて平和な風景なのだろう。ここに吟遊詩人がいたら、歌でも作ってくれるだろうか。


「ここに少し前まで真っ黒な土しかなかったなんて、信じられないわねー…」

「ああ、全くだな。びっくりだ」

「あら、モスアトマ。いつの間に」


足元にはまんままりもの見た目をした球体がいた。抱き上げて匂いを嗅ぐ。はちみつみたいな甘い香りがする…。石鹸でも変えたのかな?

柔らかい毛に顔を埋めてすーはーしていると、モスアトマが暴れ出した。


「何しやがる!ハグは十秒までと言っただろ!」

「けち。枕にするわよ?」

「それだけはやめてくれぇっ!」


モスアトマは身をよじるが、丸っこい体は到底敵わず。結局私専用のぬいぐるみと化した。


「ぜえ、ぜえ……。巫女さんは今、何やってるところなんだ?」

「んーと、ダークエルフのために平屋を建てようとしたんだけれどね。断られちゃって」

「そりゃあいつらもエルフだからな。種族の誇りってもんがある。得体の知れない家にわざわざ住みたいと思うか?」

「うん、得体の知れない家……ね」


そこで、何かが引っかかった。こう、あとちょっとで呑み込める小骨みたいな感じだ。

得体の知れないものだから嫌がる……。エルフだから他人に勧められたものに簡単に頷けない……。

それなら。


「分かった!!」

「おおう!?」


勢いよく立ち上がったことで、うっかりモスアトマを落としてしまった。花畑の上をころころと転がるモスアトマが叫ぶ。


「分かったって何がだよ!あとこの体勢きつい!早く拾わんかこのー!」

「分かったのよ、ダークエルフに快く住んでもらう方法が!ってことで、ウメ、フキ!」


思い立ったが吉日。

私は顔なじみの大工たちの元に駆け寄る。


「二人とも、家ってアレンジできるわよね!?」

「ああ、いけるぜ。図案を見せてくれりゃぁちょちょいのちょいだぜ」

「ん…。大丈夫…。でも、何しようとしてるの?」

「それはねっ!」


私は声高に宣言する。


「理想の家対決をするのよ!!」

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