記憶のない少女・メネスが目覚めたのは、不思議な列車の中。
傍らにいるのは、完璧な所作とどこか謎めいた雰囲気を持つ専属車掌・エヌ。
自分は誰なのか。
本当の名前は何なのか。
その答えを求め、二人は夢幻境を巡る旅へと向かいます。
猫たちの暮らす街。
白亜の幻想都市。
穏やかな理想郷。
そして、夢のさらに奥へ――。
壮大で、ときに恐ろしくもある幻想世界を巡る物語ですが、私が何より惹かれたのは、その旅の途中でメネスの中に積み重なっていくものたちでした。
誰かに名前を呼んでもらうこと。
怖くても、自分の意思でもう一歩進むこと。
猫の背中を撫でること。
そして、その土地で出会った料理を「おいしい」と味わうこと。
メネスには、思い出せない過去があります。
けれど旅を続けるほどに、彼女の中には「今ここで生まれた思い出」が確かに増えていく。
それが、たまらなく愛おしい。
そして、最初はメネスを導き、守り、食事を用意してくれる存在だったエヌとの関係も、少しずつ変わっていきます。
「私は誰?」
そう問い続けていた少女が、やがて誰かに対して、
「あなたを知りたい」
「私も何かしてあげたい」
と願うようになる。
その変化が、とても好きでした。
もちろん、旅の先にはいくつもの謎が待っています。
メネスとは何者なのか。
エヌとは何者なのか。
そして、この列車は彼女をどこへ連れていくのか。
でも、その答えはぜひ、何も知らないまま彼女と一緒に探してほしいと思います。
なぜなら、この物語で大切なのは「何を思い出すか」だけではないからです。
旅をして、出会って、食べて、怖がって、笑って、誰かを大切に思う。
そうして生まれたものもまた、確かにその人を形作る「思い出」なのではないでしょうか。
あなたもぜひ、メネスとエヌと一緒に、この不思議な列車へ乗り込んでみてください。
その旅の先で少女が見つける「私」を――ぜひ、ご自身の目で見届けてほしい作品です。
記憶を失った少女「メネス」が目を覚ましたのは、どこか不気味で、けれどこの上なく優雅な列車の中。出迎えたのは、赤い瞳を持つミステリアスな車掌・エヌ。
この作品の魅力は、なんといってもその独特な「空気感」にあります。
窓の外を這う異形の影や、贅を尽くした「宇宙」の味がする料理。そんな少し怖いけれど覗いてみたくなる幻想的な世界を、メネスは時に愚痴をこぼし、時においしそうに食事を楽しみながら、等身大の女の子として歩んでいきます。
特に、第2話、第3話と進むにつれて描かれる「食事」の描写は必見です。列車の優雅なフルコースから、街での素朴な硬いパンまで、五感を刺激する文章が物語に不思議なリアリティを与えています。
しかし、物語はただの「癒やしの旅」では終わりません。
第3話のラストで突きつけられる、あまりにも残酷で衝撃的な展開。
「彼女は何者なのか?」「なぜ世界に拒まれるのか?」
散りばめられた謎が、読者を一気に物語の深淵へと引きずり込みます。
美しい幻想文学のような香りと、ハラハラするミステリー要素。
一味違う「異世界旅」を味わいたい方に、ぜひ手に取ってほしい一冊です。
彼女の指先が扉に届くとき、一体何が起きるのか。その目で見届けてください。