第48話 交渉
「金貨7枚、しっかり払ってもらうよ」
「い、今は」
ファームさんがだらだらと汗を掻いた。
「あんた、嫁を助けたくないのかい? 子供を助けたくないのかい?」
「秋まで、待ってくれないか」
「すぐに用意しな」
「秋になれば、お金が手に入る」
「話にならないねえ」
どうする?
何を言えばいい?
どう言えばいい?
ファームさんは今冷静ではない。
俺だ。
俺が交渉する。
言葉が出てこない。
「金を払わないと話にならないねえ」
金。
そうだ。
「あ、あの!」
「なんだい? 今取り込み中なんだ」
「10日で金貨1枚、70日で金貨7枚にして貰えませんか?」
「……5日で1枚だ」
「そ……分かりました。8日で1枚でお願いします。お願いします」
だらだらと汗が出てくる。
短くなればなるほど払える可能性が下がる。
「5日だよ」
ファームさんを見た。
生命力の高さ、それを前から感じていた。
ファームさんなら時間さえあれば払える。
金貨2枚を出そう。
「あの、では最初に金貨2枚分を支払いますので何とか期間を長く」
「5日だ」
「ぐ、そ、そこを、なんとか」
「5日だ、これ以上は負けられないね」
ファームさんが頭を下げた。
「5日ごとに金貨1枚で、妻と子供を頼む、助けてくれ」
「それは分からないが、力は尽くすよ」
助かるかどうかは分からないがやるしかない。
金は確実にかかる。
5日は、短い。
両手を強く握りしめた。
「では、金貨2枚分を今」
「待ちな、ギルドで契約書を書く、あんたもファームも信用が無いんだ」
「しかし妻が」
「今は薬で落ち着いてるよ。助手、あんたが面倒見ときな、苦しんだらこれを飲ませるんだよ」
助手が頷いた。
3人で外に出た。
「丁度いい乗り物があるじゃないか」
「ちょ、まだラッキーが懐いていないので」
「そこを何とかするのがあんたの役目だよ」
ラッキーを撫でながら落ち着かせた。
「ラッキー、メディさんをギルドに運んでくれ」
「……」
間をおいてこくりと頷いた。
ファームさんがメディさんを荷車に乗せた。
「下が汚れてるねえ」
外套を脱いで下に敷いた。
「今はこれで我慢してください。あと、大きい声はラッキーがびっくりします」
「ふん、出しな」
日が沈んで気温が下がってきた。
外套を脱いで寒く感じる。
少し震えた。
「あんた、震えてんじゃないか、もういい、下に敷いたのを着な」
「大丈夫です。大丈夫です」
ギルドに着くとファームさんがメディさんを下ろしてギルドにいれた。
長くなる、そんな気がした。
外套を着てラッキーのロープを外した。
「ありがとな。ゆっくりしててくれ」
ギルドの中に入るといつもと空気が違った。
外を見るとラッキーが中を覗き込んでいる。
少し落ち着きがない。
中央にテーブルを挟むようにメディさんとファームさんが座り受付嬢が間に座っていた。
ギルド職員さんと冒険者も立ち上がって周りを囲む。
「金貨1枚ずつ、5日ごとに支払う契約内容になります。手数料がかかりますがよろしいですか?」
俺は銀貨と銅貨を取り出した。
「これで枚数分です」
「少々お待ちください、7枚の紙を書きます、その後に他の職員さんがチェックをしてから名前を書き込みます」
俺もテーブルについた。
そしてお金の入った袋から銀貨と銅貨を並べる。
「金貨2枚分なら今用意できます」
「2枚分は支払い済みとして、では、残り金貨5枚分の契約書を作成しますね」
使わなかった分の手数料がすっと返って来た。
うまく行動できていない。
「銅貨を銀貨に両替してくれるかねえ?」
「分かりました」
「ファーム、あんたは持ってないのかい?」
「金貨1枚分なら家にあるが」
「なら明日ギルドに払いな」
契約の紙5枚が作られてファームさんが契約書にサインした。
俺は目を瞑って深呼吸した。
目を開けて下を向く。
ファームさんが金貨1枚。
俺が2枚払った。
残りは金貨4枚。
次は……
「ファームさんが金貨1枚を払ったら、20日までに金貨1枚、その後は5日で金貨1枚を払っていき合計7枚、でいいですよね?」
「そうだね。ところであんた、ファームと関係あんのかい?」
「助けて、もらいました。何もできない冬に」
「あんたが後、金貨何枚か立て替えてくれるなら安心なんだがねえ」
「あ、」
「板材で稼いでるんだろ?」
そうだ、早く板材を納品すればいい。
お金なら後からゆっくりファームさんに返してもらえばいいんだ。
ファームさんは頭がいい。
そして体が強い。
俺がはいと言えば話はまとまる。
「はい、稼いで払います」
「そうかい、安心だがファーム、あんたはそれでいいのかい?」
ファームさんが歯を食いしばった。
「すま、ない」
「ええ? なんだって?」
「セイ、もういいと、言えなくてすまない」
その言葉に受付嬢が涙を浮かべた。
板材を毎日王都に運ぶ。
それで後2枚稼げれば……
仕入れのために金貨2枚分はある。
あまり手を付けたくはないが、最悪それを使う。
ファームさんは出来る人だ。
もっと稼げるはずだ。
問題は、王都の板材、買い取り価格の低下だ。
時間が無い。
待て待て、今まですんなり行ったことがあったか?
あったかもしれないが、トラブルは起きるものだ。
「大丈夫です、明日から毎日板材を買って王都に納品します、ああ、その前に樽を全部返却しますね。後は明日の準備があります。失礼しました」
冒険者が声をかける。
「お、おい、セイ、大丈夫か?」
「大丈夫、大丈夫だから」
「お前顔色が悪いぞ?」
「え? あ、そう言えば、夕食がまだだったな」
「食いかけだが、持ってくか?」
「ああ、ありがとう、いただくよ」
パンを貰った。
喉が渇いて水袋を取り出した。
水がこぼれて喉に滴る。
「はあ、はあ、喉が渇いてたんだ、きっと」
男性職員さんが肩に手をかけた。
「少し座れ、水を持ってくる。水袋も貸せ。座って食べろ」
水を飲みながらパンを食べてギルドの外に出た。
ラッキーににロープを結んでファームさんの家に向かう。
歩いていると吐き気がした。
呼吸が荒い。
指先がチリチリとしびれて耳鳴りがした。
「落ち着け、ああ、そうだ、ファームさんの家に行って空樽を返してから、パンも買わないと」
明日の準備をして拠点に戻った。
暖まりたくなり焚火をつけた。
いつもより薪を多く投げ入れる。
すぐに横になる。
「いつも通りに、動け」
ラッキーを撫でた。
自分の胸に手を当てる。
「……歩け」
まぶたが重くなっていく。
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