「仏の弥平」の背中の爪痕から裏の顔を暴いていく――短編の中で推理要素が小気味よく積み上がり、爪痕が単なる情痴の痕ではなく、弥平の二重性そのものを暴く証拠として響く。これは私の好みですが、弥平を大悪党ではなく、保身と欲のために一線を越えた俗な男として描いていることがいちばん刺さりました。「仏」の異名が皮肉めいてくる。桜の散る境内での――(後は直接お読みください)まで含め、春の美しさと人の醜さを重ねた、収まりのよい時代ミステリーでした。
江戸の町にて「仏の弥平」と讃えられるほどに温厚さで知られる定町廻同心、風間弥平。彼のもとに持ち込まれたのは、斬殺された茶屋娘の亡骸が川から引き上げられたという無惨な事件。突風に桜の花が舞うように、唐突な切っ掛けから、事態は思わぬ方向へと吹き散らされて……。歴史小説と警察小説の双方を得意とする大隅スミヲ氏による、江戸時代推理小説!土に散った緋色の桜を見る時、あなたは戦慄に捕らわれることでしょう……。
仏の弥平と呼ばれる岡っ引という設定から、想像される展開から見事に昇華されています。詳しく言えないことは歯がゆいですが、情報の出し方が見事です。桜は見ている。命を散らすその時を。仏に手向けて散る桜。人の業と、美しさと。
歴史・伝奇・時代ジャンルではありますが、こちらの作品は非常に見事なミステリー掌編であるとも思います。江戸時代物らしい雰囲気の中できびきびと動いていくストーリー。無駄を削ぎ落とした、しかし鋭い心理描写。ピシッ!パシッ!と決まりながらも余韻のあるラスト。素晴らしい。是非ごらんになってみてください。こうした渋めの面白い作品も、もっとカクヨムに増えてほしいです。