最初は、何を読んでいるのか分からなかった。
物語のようでいて物語ではなく、
説明も少なく、出来事も大きくは動かない。
それでも読み進めていくうちに、
不思議とその場に「居る」感覚が生まれてくる。
ドライブの空気、会話の間、
言葉にされない気配や温度が、
行間からゆっくりと立ち上がってくる。
読み終えたあとに強く残るのは、
ストーリーではなく「時間そのもの」だった。
誰かと過ごした、かけがえのないひととき。
その中にある静けさや、どこか締まった空気。
もしかすると最後になるかもしれない、
そんな予感を含んだ時間の重み。
それらが過剰に語られることなく、
ただそこに置かれている。
だからこそ、この作品は
読むものではなく、入り込むものだと思う。
万人に分かりやすい作品ではない。
けれど、何かを感じ取れる人にとっては、
静かに、しかし深く残り続ける。
読み終えたあと、少しだけ世界の見え方が変わる。
そんな稀有な作品でした。