Ⅱ 奢れる騎士団
それより一週間後の夜……。
「──ガハハハ…! シルバニアファミリーだかなんだか知らねえが、我ら羊角騎士団陸戦隊にかかれば赤子も同然よ!」
アカベッコの盛り場にある宿屋「ボンビー総督亭」で、羊角騎士団の副操舵手、ガタイの良い縮れた黒髪のアンケイロス・サーモはラム酒を飲みながら高笑いをしていた。
彼ばかりではなく、同じテーブルには陸戦隊の隊士四名とあのイーラスの姿もある。この宿屋の一階にある酒場へ食事をしに来ていたのだ。
「へい、トポポスとエビのトスターダ、おまちどう」
そんな隊士達のところへ、店の主がトウモロコシのトルティーヤを細かくして揚げたものと、ボウル状のトルティーヤのトーストにエビの炒めものを乗せた料理を持ってきた。
店主は薄い茶の髪に蒼白い顔をした中年の男で、左脚は膝から下がなく、代わりに棒状の簡単な義足を着けている。なんでも昔、戦場で吹き飛ばされたらしいのだが、今はその義足を巧みに使いこなし、歩くにはまったく不自由していない様子だ。
「しかし、あんたらその海賊からこの町を守るために来たんだろう? こんなとこで油売ってていいんかい?」
店主はテーブルに料理を並べながら、少々呆れた様子で彼ら達に尋ねる。
「なあに心配いらねえよ。ここだけの話だけどな。一番狙われそうな銀はすでに倉庫から船に積み込んじまってるのよ」
その質問に、赤ら顔で完全にできあかっているアンケイロスはご機嫌な様子でそう答える。
「だから、海賊どもが倉庫に押し込んでも中はすでにスッカラカンって寸法だ。で、そこを俺達がタコ殴りにして一網打尽っとくらあ。ダハハハ…!」
「ちょ、ちょっとアンケイロスさん! 喋りすぎですよ! 一応、その作戦は極秘事項なんですからね?」
酔って気が大きくなり、ペラペラと要らぬことまで話してしまう酒乱の同僚を困った顔でイーラスが咎める。
「ああん? イーラス、おめえは相変わらず心配性だな。ここに聞かれて困る海賊なんていやしねえよ。どんなに大声で喋ったって
だが、もとからの気性もあってか、酔ったアンケイロスは聞く耳持とうともしやしない。
「もお、それにしたって口が軽すぎますよ。機密情報は漏らさないでください!」
「なるほどね。その船さえ見つからなければ銀は無事ってわけだ。ま、そううまくいきゃあいいけどね……」
さらにイーラスが口を尖らす傍ら、店主はそう呟くと肩をすくめてカウンターへ戻ってゆく……。
だが、隊士達の口の軽さはこのアンケイロスに限ったことではなかった。
例えば、商船ではなく地元の漁師達の漁船が泊まる桟橋でも……。
「──おーい! 漁に出るんなら俺達も連れてってくれ〜!」
「獲れた魚は山分けするからよ〜!」
毛皮のジャーキン(※ベスト)を羽織った髪ボサボサの男二人が、ちょうど漁に出ようとしていた船を大声で呼び止める。
ポレアージョ兄弟同様、これまた顔がそっくりな二人だが、兄のイダーツォと弟のルージェンスの、やはり双子のパレーテイダ兄弟だ。
兄の方は肩に三叉の銛を担いでおり、二人とももとは猟師の出だが、島育ちのため漁も得意だったりする。
「……ん? ああ、そりゃかまねえが……あんた達、確か海賊から港守りに来た騎士団の人達だろ? 暢気に漁なんかしてて大丈夫なのか?」
すると、どうやら彼らは面が割れているらしく、係留の綱を解いていた漁師は二人の頼みにそう答えた。
「だいじょぶ、だいじょぶ。この港に集められてた銀はみんな船に積み込んじまったからな」
「その船さえ見つからなきゃあ、いくら海賊が町ん中探しても、お目当ての銀はどこにもねえっていうわけだ」
だが、パレーテイダ兄弟にもまるで危機感がなく、その作戦にそうとうな自信があるのか? どちらもあっけらかんと答えている。
「へえ〜そうなのかい。ま、大丈夫なら別にいいんだけどよ。けど、ほんとに海賊が来た時はちゃんと俺達のことも守ってくれよな?」
そんなずいぶんと余裕を見せている双子の兄弟に、漁師は一応納得するも半信半疑な様子で改めて念を押した──。
また、エラクルスが指揮をとる城塞建設地内の仮宿舎前でも……。
「伝令ぇーっ! 伝令ぇーっ!」
長い黒髪をたなびかせ、筋肉質の褐色の肌をした一人の美女が風を切って駆けて来る。
キュイラッサーアーマーと白い
「なんだ、アドラ? 騒がしいぞ。いよいよジョージ・シルバニアが襲ってきたか?」
宿舎の前の広場でヒラ隊士達の剣の鍛錬を見守っていたエラクルスは、その響き渡る声に冷めた様子で尋ねた。
「いえ! 第十桟橋に停泊中の黒いキャラベル船への銀の積み込み作業、すべて滞りなく完了したのでその報告にまいりましたあー!」
激しく土埃を上げ、エラクルスの巨体の直前で急停止をしてみせたアドラは、これまたよく通る大声でそんな伝令を上官に伝える。
「ば、バカもの! それは最重要機密だと言っておいたろうが! 誰かに聞かれたらどうする!?」
そんな秘密も何もあったもんじゃない彼女の報告に、エラクルスは慌てた様子で顔を近づけると、口に人差し指を立ててアドラを制した。
城塞建築中ということもあり、周囲では普通にたくさんの人足達が石積みの作業を行なっている……誰かどころか、これでは皆に聞こえてしまったことだろう。
「ああ、すみません。ついつい、いつもの戦場の癖で大きな声を……でも、ここに海賊なんかいないし、そんな警戒する必要もないんじゃないですか?」
しかし、一応、頭を下げはするものの、アドラはまったく悪びれる素振りを見せない。
「ま、確かにそれもそうか。賊はまだはるか海の向こう……これは杞憂というやつかもしれんな」
対してエラクルスもその言に納得すると、それ以上、彼女を責めるようなこともなかった──。
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