第十三項 テイオウヒラタクワガタ

名称:テイオウヒラタクワガタ



分類:

界:Animalia(動物界)

門:Arthropoda(節足動物門)

綱:Insecta(昆虫綱)

目:Coleoptera(コウチュウ目)

亜目:Polyphaga(カブトムシ亜目)

上科:Scarabaeoidea(コガネムシ上科)

科:Lucanidae(クワガタムシ科)

亜科:Lucaninae(クワガタムシ亜科)

属:Dorcus(オオクワガタ属)

種:Dorcus imperator



最大サイズ:120mm〜140mm



生息域:ボルネオ島内陸部の低地〜山地熱帯雨林



食性:植食性(樹液食)



危険度: ★★★☆☆



特徴:テイオウヒラタクワガタは、ボルネオ島内陸部の低地から山地熱帯雨林に生息する最大級のクワガタの一種である。特に樹液を多く出す古木が密集する原生林での目撃例が多い。

ジャワ島に生息するダイオウヒラタクワガタの近縁種とされているが、最大個体ではスマトラオオヒラタクワガタやパラワンオオヒラタクワガタを上回り、最強のクワガタと呼ばれる。

本種の最大の特徴は大きく湾曲した大顎であり、中央から先端に向かって伸びる二対の内歯と、それを囲うノコギリ状の歯を備える。挟む力は凄まじく、他の甲虫類の頸部を切断した記録や、襲ってきたトカゲを挟み殺した記録すらある。

本種の縄張り意識は常軌を逸しており、一本の木を縄張りとし、近寄るものは同種・異種を問わず正面から迎え撃つ。現地では「森の暴君」と呼ばれており、樹上の生態系において最強の一角とされる。



目撃例:

ボルネオ島の原生林、立ち並ぶ木々には一本一本にドラマがある。

そこに単身で立ち入ったのが、今回目撃情報を提供してくださった西口氏だ。

氏は長年、甲虫の研究を行ってきた。

そして、ついにそれに行き着いた。

「初めて見たときは大変驚きました。ギラファノコギリクワガタよりも長くて、スマトラオオヒラタクワガタよりも大きい。一本の木を丸ごと支配し、侵入者はアリ一匹とて許さない。まさに森の暴君です。」

これは西口氏の撮影記録に基づく、樹上の暴君による圧政の記録である。


カメラが一本の木を捉える。じっと辛抱強く木を記録する。カメラが少しずつ移動すると、樹皮に金属のような光沢が混じった。光の中に見える三本の槍……ボルネオの重騎士、モーレンカンプオオカブトだ。鋭利な湾曲した三本の角は、通常であれば、ボルネオの森の支配者の一角と呼んで差し支えない存在である。

モーレンカンプオオカブトが樹上に向かって身体を震わせ始めた。と、樹上からパタリと何かが地面に向かって落ちる。小さなコウモリの死骸だった。何かに引き裂かれたような傷と共に事切れている。暴君の逆鱗に触れた先客の哀れな末路だった。

三本の槍の矛先が向けられたその先、樹上からゆっくりと黒い影が降りてくる。鈍い光を帯びた装甲が葉の隙間から覗き、やがて巨大な鋏のような大顎が姿を現した。

森の暴君、テイオウヒラタクワガタである。

大柄なモーレンカンプオオカブトをさらに上回る体格、だが、モーレンカンプオオカブトの長く鋭利な角が暴君を打ち砕く可能性もある。


モーレンカンプオオカブトがテイオウヒラタクワガタに挑み掛かる。三本の角がグッとテイオウヒラタクワガタの身体を捉えると、鉄のような装甲がメリメリと音を立てる。モーレンカンプオオカブトがテイオウヒラタクワガタを締め上げながら、持ち上げようとグッと力を込めた。


……まるで大岩を持ち上げようとしているようだった。剛力を誇るモーレンカンプオオカブトの力を持ってしても、手も足も出ない。グッ、グッ、と力を込める。場合によっては角で貫いてやろうとすら思っていたに違いない。


ギギギギギギ


鋭い音が原生林に響き渡る。テイオウヒラタクワガタの大顎がモーレンカンプオオカブトを捉えたのだ。正面から三本の角で捉えられながらも、なおも真っ向から叩き潰そうと挟んだのだ。


ギギギギギ……パキッ


一際鈍くて鋭い音が響く。テイオウヒラタクワガタの牙がモーレンカンプオオカブトの装甲を貫き、砕いた。

樹上の重騎士が後退するのを暴君は見逃さなかった。グッと距離を詰めると、思い切り首を挟んだ。しばらく鈍い音が続き……音が消える。そして、二つになった重騎士が放り投げられた。

この森で自分に敵うものは誰一人いない、そう誇示するように暴君は大顎を振り上げた。




備考:「テイオウヒラタクワガタはまさに最強のクワガタです。」

仙石氏の声が少し大きくなった。

「大顎の力は我々の想像を遥かに超えます。西口さんの後輩が、迂闊にテイオウヒラタを触ったために指を挟まれたそうですが、骨が砕けてズタズタになったそうです。……あの凶暴性、そして強さ、まさに森の暴君ですよ。」

仙石氏が熱っぽくなりかけた口調を、努めて冷静に戻しながら言った。

「実はですね、テイオウヒラタクワガタには絶対的な弱点がありましてね。そのために個体数が伸びないのですよ。……その弱点というのが、雄の異常な攻撃性です。テイオウヒラタの雄は、縄張りとなる木に立ち入ったものを容赦なく噛み殺そうとします。それが何であっても。……たとえ同族の雌であってもです。

それゆえ、雌の個体が雄の縄張りに近付くことはほとんどありません。彼らは極端に接触率が低く、仮に出会えたとしても、雄が雌を噛み殺してしまう可能性が高い。だからどうやっても個体数が伸びないわけです。

……まぁ、乱暴なやつは女の子にモテないってことですよ。」

そう言って、仙石氏がまた柔和に笑った。


「ただね……」

仙石氏がまた言葉を続ける。

「一つ誤解して欲しくないことがあって」



「これは“最強のクワガタ”の記録であって、“最強の甲虫”の記録ではないんですよ。」



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