本作を読んでいて強く感じたのは、この世界における「八十点」という数値の意味の変質です。
誰もが満たされ、苦痛は排除され、幸福は維持される。
平均八十点以上――それは理想の到達点のはずです。
それが、この世界では違う。
八十点が標準化された瞬間、そこにはもう上も下もなく、比較も揺らぎも存在しない。
それはもはや「高得点」ではなく、
ただの均された平均に過ぎないのではないかと感じました。
そしてその均一さは、やがて感情そのものを削いでいくのかもしれない。
喜びも、悲しみも、振れ幅を失い、
強く何かを望む理由さえ消えていく。
ノイン・アサクラの「ただ——」に詰まっているのは、その言語化されない違和感なのだと思います。
対するクロの合理性は、あまりにも正しい。
だからこそ、この世界は壊れない。
けれど、壊れていないまま、
静かに何かが失われていく。
その“気づいてしまった者だけが感じる空洞”を描いた点に、強く惹かれました。
そして最後に。
夜空に浮かぶ月と、本来は散りゆくはずの桜。
それらが「最適化された美」として置かれていることにも、とても惹かれます。
体験はある。
けれど、どこか実在しない。
感情だけを残し、現実を薄く遠ざけていくような世界の中で、儚さの象徴である桜をシンボルに置くこの演出が、とても憎いです。
静かで、美しく、そして恐ろしい。
そんなディストピア感を味わえる作品でした。おすすめです。