バーボンの香りを鼻先で嗅いで、一滴も飲まずに静かに蓋を閉じる——第一話のこの場面だけで、アルフレッドという男のすべてが伝わってきました。
荒野に銃声が響く中、彼の頭を占領しているのは包囲してくる武装集団でも命の危機でもなく、「腹が減った」という至極人間的な嘆きです。この構図のズレが、物語全体の笑いの核であり、同時にアルフレッドの愛おしさの源でもあります。
特に秀逸なのが、カルメンとブラッドの勘違いです。「大きなヤマの前の禁欲の儀式」と信じ込んでいる二人が、実は娘から直々に「父の健康管理の監視役」として派遣されていたというオチ。この二重構造の可笑しさは、読んでいる間中ずっと効いてきます。
タイトルの『Tap, Rack, Bang』——銃器の不具合を即座に解消するための手順——が、健康管理という名の苦行に立ち向かうアルフレッドの姿勢そのものを表しているのも好きです。詰まっても、叩いて、引き抜いて、また撃つ。不器用でも前に進む男の美学がそこにある。
葉巻も酒も我慢しながら、孫を抱くという人生最後のヤマに全力で挑む伝説の男——こんなに笑えて、こんなに温かい無双主人公はなかなかいません。完結済みなので最後まで安心して読めるのも嬉しいです。
裏社会で「歩く厄災」と恐れられた伝説の殺し屋、アルフレッド。
銃を抜けば敵を圧倒し、荒野に立てばそれだけで絵になる男です。
けれど、そんな彼が今いちばん苦しんでいるのは、敵組織でも狙撃手でもなく、
禁酒、禁煙、そして健康食。
このギャップが本当に楽しい作品でした。
アルフレッド本人は、娘に言われた健康生活を守り、孫を抱くために必死なだけ。
それなのに周囲からは「欲望を捨てた伝説の男」「大仕事の前に己を律している」と勝手に勘違いされていく。そのズレがとても面白くて、シリアスな銃撃戦の最中でも、つい笑ってしまいます。
特に好きなのは、アルフレッドがただの無双主人公ではないところです。
強い。渋い。格好いい。けれど内心では、塩気のある肉を恋しがり、ふかし芋や無塩チキンに絶望している。その姿に、どこか哀愁と可愛げがあって、読めば読むほど応援したくなりました。
黒崎凱様の作品は、突き抜けた設定の面白さだけでなく、その中にきちんと人間味を残してくれるところが魅力だと感じます。
派手なアクション、勘違いの笑い、そして「孫を抱きたい」という切実で温かい目的。その三つが合わさることで、ただ笑えるだけではない、愛着の湧く主人公になっていました。
アルフレッドは無事に健康への道を歩めるのか。
そしていつか、塩気のある肉を食べられる日は来るのか。
そんなことまで気になってしまう、痛快で楽しいハードボイルド・アクションコメディです。
裏社会で「歩く厄災」と恐れられた伝説の殺し屋アルフレッド。その最大の目的が、孫を抱くための禁酒・禁煙・ダイエットという時点で、もう勝ちです。
銃撃戦の渋さ、荒野の空気、葉巻とバーボンが似合うハードボイルドな男。その全部を、味のないオートミールとふかし芋が台無しにしていく構図が最高に面白いです。本人は娘の命令で健康生活をしているだけなのに、周囲は「大仕事の前の禁欲」と勘違いしていく。このズレがテンポよく笑えます。
カルメンとブラッドの軽口も楽しく、ハードボイルド×健康管理×勘違い無双という組み合わせがクセになる作品です。