つらい出来事から始まる物語は、事故によって記憶をほとんど持たない主人公の湊の視点を軸に、ゆっくりと立ち上がっていきます。
その中で、妻を亡くした父と交わされる対話には、明るさがありながらも切ない空気が漂っている。
それは父という立場として明るく振る舞おうとする姿と本心との差だったり、それを見つめる湊の心情だったり。
そんな細やかな心理描写が丁寧に描かれ、湊は新たな出会いを通じて、心のあり方も少しずつ変わっていく。
これはどこにでもある日常であると同時に、選び抜かれた言葉によって実現したとてもリアルなドラマです。
だからこそ心に迫るものがあり、最後はあたたかい気持ちになることができる。
誰にでも起こり得るハートフルな物語を、多くの方々に読んでもらいたいと感じました。