第46話 追憶(42)三つの課題
「【かんぱ】、ここでいいんだな?」
『是、【へんかん】のスキルを発動させた際に得られる「ダンジョンボス覚醒ポイント」は、ここでも使用できます』
俺が、この島の中心部にある師匠の木――――トネリコの木の前に戻ってきて、【かんぱ】に【へんかん】のスキルを発動させてよい場所を尋ねると、ここでも大丈夫という答えが返ってきた。
この場所は、言ってしまうと魔草原内の空白地帯のようなものだけれど、一般的なダンジョンでいうと、ここが最下層みたい。金色の魔草を呼び出すことは問題ないそうだ。
ダンジョンボスは、ダンジョン内ならどこでも出現するという話だったし、実際、過去に師匠が見たという金色の魔草も、離れた魔草原の中だった。
ただ、魔力が霧散する魔草原内では、俺の【へんかん】スキルも発動させることができない。
それに、ダンジョンボスを倒したあと「選択の時」で選ぶことができるスキルは、発動させるまでの時間が短いそうだ。
【かんぱ】に確認したところ、この世界で「選択の時」が出現した回数は10回を超えるそう。いずれの場合も「きかん」を選んだ異世人はおらず、全員がもう一つの提示されたスキルを選んだ、ということだった。
そして、アカシックレコードを参照すると、「選択の時」で示されたスキルはいずれも時限式で、提示されてから消滅するまでの時間は最短で1分、最長で12時間だったそう。
最短で1分、って考えさせるつもりが皆無であることを示しているとしか思えない。
だから俺は、師匠に迷惑をかけることになるかもしれないけれど、この場所を選ばせてもらった。
「【かんぱ】、残り時間は?」
『是、2分30秒です』
(よし!)
ふぅ。
俺は目を閉じてから、一回、深呼吸をした。
これからやることを、心の中で復唱する。
一、俺の「運」のポイントを【へんかん】のひらがなスキルを使って「覚醒ポイント」に変換する。
二、ダンジョンボスである金色の魔草が呼び出されるので、それを討伐する。
三、討伐が終わると、「選択の時」を提示されるから、【きかん】ではないスキルを使って、師匠を救う
やることは以上だ。
問題、いや課題はいくつかある。
金色の魔草を呼び出すところまでは上手くいくだろう。そこは心配していない。
まず課題の一つ目は、呼び出したダンジョンボス(金色の魔草)を、討伐できるのか、ということ。
まあ、【かんぱ】の見立てでは99.99%討伐可能ということだったから、この一つ目の課題は、油断していなければ大丈夫だと思っている。
討伐する方法だが……他の魔草と同じで、抜くだけ。
二つ目の課題。
もしかすると、これが一番大きな課題となるかもしれない。
それは、俺の元の世界での記憶が取り戻されること。今は、何も分かっていないから冷静に考えられるけれど、その記憶を取り戻すと、どうやら俺は地球に帰りたくなるらしい。
例えば、家族が事故に遭う直前だったり、人生をかけた試験を受けている途中だったり……
まあ記憶がない俺にとっては、それは幻想でしかないのだが。
師匠を失うことと天秤にかける必要がある事情というのを、俺は知りたくない気持ちでいっぱいだった。
だが……
こればっかりは、心を強く持って受け止めたいと思う。
三つ目の課題は、「選択の時」で師匠を救うことができる選択肢を得られた時に支払わなければならないであろう代償のことだ。
師匠は、【すくう】を得る代償として、自身が「トネリコの木」になった。
果たして、俺はどんな代償を支払わなければならないのだろうか?
もちろん、その支払いを恐れているつもりはない。なんなら俺の命を代償にということでも全く問題ない。
ただ、できれば師匠と共に過ごせる代償で留まってくれることを祈るばかりだ。
俺は、もう一度、深呼吸をした。
(よし! 始めよう!)
三つの課題を自分に言い聞かせたのは、戸惑わないため。
最初から、覚悟を持って挑めば、その戸惑いは最小限に抑えられる、と思っている。
「【かんぱ】、始めるから、あとはよろしく」
『是、お任せください』
【かんぱ】の答えに俺は少しだけ笑っていた。
今の答えは、【かんぱ】が行う本来の行動とは違うものだ。だが、俺に寄り添ってくれるその答えは俺に安心感を与えてくれる。
まずは、【へんかん】のスキルだ。
■【へんかん】使用魔力:1
変換したい対象を指定、変換できる対象とコストが表示されるので選んで実行する。一回の変換を実行した場合、魔力を1消費する。
なるほど。使ったことがなかったけれど、こういうことか。
よし。
「【へんかん】!」
俺は自身の「運」のステータスを意識しながら【へんかん】のスキルを発動させた。
■――「運」のステータスを変換ですね。現在の「運」のステータスの数値で変換が可能な対象は「ダンジョンボス覚醒ポイント」「神獣ポイント」「ワームホールポイント」の3つです。
……神獣ポイントとか、ワームホールポイントとか気になるけれど、今は時間がない。
「ダンジョン覚醒ポイント35万ポイントに変換したい」
■――ダンジョン覚醒ポイントに変換する場合、変換レートは1,000対1ですので、変換に必要な「運」のポイントは、3億5千万になります。変換を実行して良いですか?
「お願い」
■――実行しました。ご利用ありがとうございました。
俺は、ステータスを確認した。
(ステータス、オープン!)
名前:ルイ
種別:人族(異世人)
年齢:11歳
性別:男
職業:■■■■
レベル:3,509,118,430
攻撃力:3,509,118,430
魔力 :3,509,118,430
防御力:3,509,118,430
精神力:3,509,118,430
運 :3,159,118,430
▲ダンジョン覚醒ポイント:350,000
よし。ダンジョン覚醒ポイントが35万分、手に入った。「運」のステータスは、3億5千万減ったけれど、35億もあったせいか、見た目で大きな違和感は感じない。
「【かんぱ】、どうすれば良い?」
『是、ダンジョン覚醒ポイントを使用すると念じてください』
「わかった」
俺はすぐに、心の中で念じた。
(ダンジョン覚醒ポイントを使用する!)
■――ダンジョン覚醒ポイントが使用されました
メッセージが脳裏に浮かんだので、ステータスを確認すると確かに、さっき表示されていたはずの「ダンジョン覚醒ポイント」が消えていた。
そして……
トネリコの木を背に立つ俺の前に、魔力が集まり始める。
一つ目のミッション(課題)――――「ダンジョンボスを討伐する」がスタートした。
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