十二 願い

 しょうじと死神の前には大きなお寺がそびえたつ。観光客の波に隠れて、下半分が見えない。


「えー、あんなに朝早く頑張って起きれたのに。人多くない?」


 死神は文句を吐いた。


「起きたじゃなくって起こされたの間違いだろ……」


 そのしょうじの話を聞き流し、人ごみの中に入っていく。


「おい、待ってくれ!」


 しょうじも見失わないように後を追う。


 死神は寺に入るための列に並ぶ。


「結構長いねぇ」


 死神が列の前の方を見る。お賽銭を投げてお辞儀する人が次々と列を短くする。

 

「お前、死神の癖にお参りなんかするのか?何のためにだよ」


 商事が死神に追いつき、彼女と列に並ぶ。


「まぁ、うちの場合は友達に挨拶?みたいな感じなんだよねー」


 彼女は寺の方を指差す。


「寺にはそれぞれ守護神がいて、たまに魔界まで遊びに来るんだよね。その時にうちも知ったんだけど、ここを守ってる神様もうちと同い年くらいなの!」


「よく分からんが、挨拶しに行くということか?」


「いやだからそう言ったじゃん」


「そうか……」


 しょうじは死神と一緒に旅をしているせいで感覚が狂ってきたと感じていた。神を信じる?今までお参りで願い事をして叶ったことなんてないのに。それに死神が自分の目の前にいて、神様と友達?それはさすがに他の人に言ったら精神科医を進められるだろう。

 「一人で抱え込まないでね。と言われたのに抱え込んでることが絶対他人に言えないこと」ランキング一位だろうか。


 進み続けた列は、遂に死神としょうじの番までやって来た。


 しょうじはいつも通り、他の人がやったことと同じようにお参りをしたが、同時に横を見て死神が一体何をしているのかを観察した。何やら独り言のようにゴニョゴニョ言っているが、きっと目の前にその神がいるのだろう。


「何かお願い事した?」


 後で死神がしょうじに聞いた。


「お前こそなんか神に頼んだのか?何話してたんだよさっき」


「うちが最初に聞いた!」


 確かに、とこんな奴に正論を一発入れられてしまったことに少し驚きながらも、しょうじは潔く答えた。

 

「……そりゃ、あれだろ。やっぱり魔界の気が変わって、一週間以上生きられますようにって」


 死神はしょうじの顔をじっくりと観察した。表情でも読み取ろうとしているんだろうか。


「んーなんかほかに隠してるっしょ」


「えっ?」


 図星だ。願い事に続きがある。それを当てられたらまずい。


「まっ、聞かないであげる。ほら、早く次いこ!飛び降りるところはどこだー?」


 先を行く死神の後を追いながらしょうじは安心のため息をついた。ちょっと恥ずかしい願いだったけれど、彼は本当に叶ってほしいと思っていたからだ。


 最後にお参りを続ける行列の先頭に、もう一度手を合わせてから死神の下へ向かう。


「届かぬ願いかもしれないけど、どうか……」


 死神は塀から体を乗り出して下を見ていた。


「やっばぁ!これ高いね。これ飛び降りる人なんているのかな」


「飛び降りて死なずにいられたら願いが叶うっていうくらいだから昔に誰かがやってたんじゃない?」


 しょうじも下を見てみる。どう考えても人が死ぬ距離だ。


「うち飛び降りてみようかなー。なんちゃって」


「なにも叶わないと思うけど、死神で死なないからいいんじゃない?」


 そう自分が無関係そうに言うしょうじだったが、しょうじ本人はだいぶ飛び降りるかどうかを考察していた。

 どうせい、一週間以内に、あと六日程で死んでしまうならば、二つのパターンが思い浮かぶ。ここで飛び降りて、真っ先に死ぬか、どうにか生きて長く生きることを願い、叶うか。

 だがやはり、生き延びたところで願いが叶う保証はどこにもない。となればバカバカらしい最後を迎えるよりは、この旅行をたっぷりと満喫して、この死神にやさしく、笑顔のまま命を取ってもらいたいかもしれない。


 じっくり考えていたしょうじの背中を死神が軽く押す。


「わっ!びっくりした?」


 死神がしょうじを突き落とそうと遊んでいる。


「ちょっとびっくりしたわ。やめてくれ」


「自分の死ぬ日時を分かってるのに怖いのー?」


「バタフライ効果とか言ってたのはお前じゃないか!」


「ふふーん。うち、そういうの分かんないからとりあえず藤さんから言われたことを言ってみただけー。バタフライ効果が起こるのはこの一週間の後だしぃ。とりあえずヤバイことさせなければ大丈夫っしょ」


「なんで得意そうなんだ……」


 しょうじはおでこに手を当てながら、頭を横に振った。


「よし。死神、あと何日と何時間残ってるんだ?」


「えっ、五日と十四時間半だけど……?」


「時間だな。そろそろ行くか」


 しょうじは死神に見向きもせず清水寺を離れる。


「げっ、まさかうち時計として扱われてる?ねぇショージ、謝るからぁ、ごめんねぇ?」


 死神も後を追いかける。


「ねぇショージ、次どこ行くの?んねぇーごめんってば!」


 しょうじの後にトボトボついてく死神。しょうじはというと、起こってはおらず、少しこのやり取りを楽しんでいた。

 

 二人は次に、どこに行くのだろうか。しょうじは残り五日と少しでどこまで旅をするのだろうか。そして、しょうじの願いはその期間の中で叶えられるのだろうか?

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