第6話 バーベナス領へ
魔王降臨。これは冗談ではなく、クロヴィス家の魔王様のことだ。しかも今回は側近までいる。
「ノエ、言い訳を聞こうか」
「……あ、ありましぇん」
「ノエ様、言い訳くらいあるのでは?」
「な、ないよぉ。進化した。離れない。連れて行く。契約。この流れ、カンペキ」
そう、全てはカンペキだった。屋敷に帰るまでは。
「本当に完璧だと思ったのか?」
「うぐっ……ロイ兄様と僕のカンペキ、チガイマス」
「そうだな。全てが違う。そもそも最初の目的はどうなった?何がわかった?まさか、幻獣を連れて来て満足……なんて言わないよな」
ひぇ……すっかり忘れてた。でも、そのあたりを調べるのはエリオスの仕事だし、僕はもふもふするだけだし……うぅ……
「ごめんなさい」
「………………はぁ、やってしまったものはしかたない」
すっごい間があったけど、なんとか魔王様の怒りを鎮めることができたみたいだ。あとは側近だけど……うん。そっちは大人しくしてれば大丈夫なはず!
「エリオス、あとで詳しく説明してくれ。それと、ノエを止められなかった代わりに、一度バーベナス領に戻って、暫くは帰れないと伝えてこい」
「それは通信機では駄目なのかい?」
「罰みたいなものだ」
「ノエを連れて行っても?」
「罰だと言っただろ」
「いや、ノエもここから出れないなんてかわいそうじゃない?一度くらいバーベナス領に行ってもいいと思うんだよ。あそこなら安全で――」
「ユリウスさんがノエに会いたいのか?」
「……そうだね。兄さんがどうしても会いたいらしい。ノエの【代行者】についても調べてくれている。心配だから、どうしても一度会いたいそうだよ」
ユリウスは、エリオスの兄でバーベナス侯爵だ。僕の記憶にはもうない。赤ちゃんの頃と、僕の両親が亡くなった時に会ったようだが、ユリウスの記憶はすっぽり抜けてしまっている。
「はぁ……しかたない。エリオスを暫く借りることになるからな。ノエ」
「ひゃい!」
「バーベナス領に行っておいで」
「いいんですか?猫が心配。誰かお世話してくれますか?それとも、一緒に連れて行ってもいいです?」
「猫の世話はリノスにやらせる」
すると、話を聞きながらクゥを睨んでいたリノスが、ショックを受けた様子で固まった。かわいそうに。
「リノス、よろしくねぇ。僕は旅に出る!」
「ノエ、旅ではない!ノエは帰ってくるんだ」
「そうです。猫達のことは任せてください。ノエ様好みの毛並みにしますので、早めに帰ってこないと忘れられますよ」
やばい!それは早く帰ってこないと!リノスが本気を出せば、猫の毛も……ああ、楽しみ!
そうして、その日は疲れたのか早めに寝ることができ、翌日は珍しく熱を出さなかった。
「なぜ、熱を出さない」
「なぜって言われても……いいことです!これで、今日から出発できますよ、ロイ兄様!」
「……そうだな」
ロイ兄様は残念そうにするが、僕は元気いっぱいで体も軽く感じ、いつもより動きたくなる。クゥも「ククク」と鳴いて嬉しそうだ。ロイ兄様を見て笑っているようにも思えるのは、きっと気のせいだろう。
「ノエ、今日は元気だね」
「元気だよぉ!クゥも元気。行くのはリオス兄とバーベナスの人達だけ?」
「念のため、ラルフとフェイロスに指名依頼をしたから、彼らも来ると思うよ」
二人はクゥの存在も知ってるし、指名依頼出すのは納得だけど、他に予定はなかったのかな。急な依頼だったのに。
「今回も、こちらからは護衛を出せない。ノエが乗ってると知られたくないんだ」
「わかってるよ。向こうでもノエを隠せってでしょ?」
「ああ、頼む。ノエに関しては教会の方が信頼できるからな。何かあれば、教会を頼れ」
「何もないことを祈るよ。見つかれば何があるかわからないからね。最強の辺境伯が溺愛してる弟を人質……なんて、許せるわけないからね」
「そんなことよりも、ノエの可愛さが心配なんだ。ノエはこの通り、可愛くて賢くて美しくて――」
始まった。ロイ兄様はブラコンすぎるよ。僕としては、エリオスの言ったことの方が気になる。人質なんてなりたくないから、大人しくしておこう。今の僕にはクゥっていう、最強のもふもふがいるから大丈夫だ。
そうして僕は人生初めての馬車に乗り込み、ロイ兄様に見送られて街を出た。見送りが多いと怪しまれるため、リノスは留守番。ラルフとフェイとは、街の外で合流した。
♢ ♢ ♢
初めての馬車でお尻が痛くなってきた頃、僕は魔法を使うか迷っていた。僕の場合、浮いてしまえば痛くないのだ。
「ぐむむむ」
「ノエ、お尻が痛い?クッションがあっても駄目か」
「むぅ……横になってもいい?」
「ノエはちっちゃいから横になれるもんね。でも、危ないから駄目だよ」
「リオス兄の膝枕でも駄目?」
「……それは可愛いね。私が押さえれば……いや、もしもの時が危ない。でも可愛い。絶対に可愛い。いやでも……」
すごい葛藤するじゃん。もう魔法使っちゃおうかな。涙出そうなくらい痛いんだもん。限界なんて疾うに超えてる。
もう限界!と叫んで魔法を使おうとしたその時、クゥが僕の膝に顎を乗せてきて、「ククク」と鳴く。
「クゥ……ん?痛くない。あれ?どうして?」
「クゥは回復魔法が使えるのかい?」
「わからない。でも……痛くない!」
「まさかとは思うけど、熱が出たノエを回復させた?」
「ククク」
そうだ、とでも言うように鳴くクゥに、エリオスは頭を抱えてしまうが、僕は喜んだ。これからは寝込まないかもしれないと思うと、喜ぶのは当然だろう。
「クゥ!僕はクゥに出会えて良かった!」
「ククク」
「いや、ノエ……回復魔法は病気に使うと免疫が壊れると言われているんだよ」
免疫が壊れる?それってまずいんじゃない?
「まあ、元々ノエは免疫がないようなものだし、今までと変わらないだろうけどね」
「……僕、そんなに弱い?」
「ノエは強いよ。何度も生死の境を彷徨ってるけど、こうして生きてるでしょ?」
確かに……普通なら死んでもおかしくないもんね。
「ククク」
「ん?大丈夫だよ。僕は強いんだって」
クゥが心配そうに僕の手を舐めてくる。
「クゥは未来が見えるから、そのクゥがやったなら大丈夫だと思うよ」
「そうなの?」
「うん。使い過ぎには注意だけどね。むしろまずいのは、回復魔法を使えることかな。ノエのそばに、回復魔法が使える者がいるのはいいことだけど、回復魔法を使える者はほとんどいない」
「そうなの?回復魔法って、どの属性でも使える魔法でしょ?」
「だからこそと言ってもいい。たとえば、ノエは火属性と言ったら何を想像する?」
「火は火だよ。ボッて燃えるやつ」
「そうだね。じゃあ水は?」
「水も水。風も風。土も土」
「そういうことだよ」
どういうこと?全然わからない。魔法は想像でできてるし、想像したら回復もできるんじゃないの?残念ながら空属性はできる気がしないけど。
「ふふ、わからない?ノエは火を回復の火として想像できる?今、燃えるって言ったよね」
「あ……できない。燃やすのにどうやって回復?火傷するよねぇって思うかも」
「だから難しいし、ほとんどの者が回復魔法を使えないんだよ」
なるほど。理解、理解。それでいくと、僕の空属性も本当は使える?でもどうやって?……んー、わからん。
その後も馬車に揺られ、何度か途中の街で寝泊まりし、数日後に漸くバーべナス領に到着した。
「おかえり、エリオス。それと、久しぶりだね、ノエルティス」
先に通信機で知らせていたらしく、侯爵自ら出迎えてくれた。
「こんにちは……えっと……ユリウス様」
「様なんてやめてほしいな。ロイエンは私をユリウスさんと呼ぶが、兄と呼んでもいいよ」
エリオスに似ているが、儚げ美人なユリウスはなんとなく恐ろしい。リノスを思い出すからか、なんとも言えない雰囲気を纏っているからか、どちらもかもしれないが、とにかく距離をとりたくなる。
「ユリウスさん」
「はい、ノエルティス。さて、ノエルティスの部屋に案内しようか」
僕の部屋?僕の部屋なんて必要ないと思うけど……エリオスと一緒に寝る気満々だったよ。
「兄さん、ノエは私の部屋でいいと思うけど」
「駄目だよ。ノエルティスはまだ婚約者もいないだろう?」
「だからこそ」
「だからこそ、近くに誰が潜んでいるかわからないからね」
なにそれ。怖い話?見知らぬ人に監視でもされてるの?
「私は身内だけど?」
「これはエリオスの為だよ。諦めなさい」
もしや経験者?ストーキングでもされてたのかなぁ。確かにユリウスは美人だし、一人や二人いそうだけど……怖いね。かわいそうに。ここは、僕がトラウマを刺激しない為にもユリウスに協力しよう。
「ユリウスさん、案内してください。クゥも一緒でいいですか?」
「ああ、いいよ。案内するね」
心底安心した様子のユリウスを見て、予想は当たっていたのだと思う。その後、僕は部屋に案内されて荷物を置き、次はテラスへと案内される。そこには、ラルフとシルバ、それと長い足を組んで優雅に茶を飲むフェイもいた。
「どうしたの?宿、空いてなかった?」
「いや、バーベナス侯爵に招待を受けて、俺達もここで世話になることになった。シルバがノエ様の近くに行きたがっていたしな」
「ノエルの身内は気が利くな」
フェイは何様なんだろうか。誰も何も言わないからいいんだけど……もう気にしたら負けな気がしてきた。
「ノエルティスのそばにいる者を放っておくわけにはいかないからね。エリオスにも、もう少し視野を広くしてもらわないといけないかな」
「私が何?」
「ふむ……いや、なんでもないよ」
ユリウスは何か考えるように、フェイとラルフをチラリと見た後、笑顔を作った。何かあると言わんばかりだ。それも、フェイとラルフに対して。
「ユリウスさん、フェイとラルフは大丈夫です。シルバが認めた人達だし問題なしです。このシルバが!認めたんだから!もふもふは正義です」
「う、うん?そうだね」
なんとも言えない表情をされてしまった。シルバを信用できないなんてまだまだだ。エリオスの方がまだ優秀!
「リオス兄!シルバは間違いないよね!」
「そうだね。ノエが認めたシルバは優秀だよ。疑う余地もない」
当然の答えだね!完璧だよ、リオス兄!
ドヤァと胸を張りすぎた僕は、バランスを崩してそのまま後ろに倒れてしまったが、クゥが助けてくれる。やはりもふもふは正義だった。
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