第28話 聖なる衣をまとう者

空気がざわめいた。


リリが杖を振るうと、神々しい光の木漏れ日が降り注いだ。


誰もが驚きの表情を浮かべた。


「なぜ聖女様が……」


特務兵の一人が思わず呟く。


「あれは魔王因子保持者だぞ」


「命令と違う……」


包囲陣形がわずかに揺らぐ。


それほどまでに、“聖女が誰かを庇う”という行為は異常だった。


特務部隊隊長だけは――おそらく予期していたのか表情に動きはない。


聖教会において、

女神サナスタシアの先兵となるのが枢機卿を含めた党員たち。


そして女神サナスタシアを代弁するもの――それが聖女。


「なんで…」


ターニャが絞り出すように声を出す。


「なんで来たのさ…」


か弱く消え入りそうな声。


「なんでって‥‥」


リリは人差し指を顎に当て考えるようなしぐさをする。


「ターニャさん、私がいないとなにもできないじゃないですか。スーパー高性能美聖女の、私が、いないとっ!」


「はぁ?」


イラっとして声を返した――けれど。

少しだけ。

本当に少しだけ、

胸の奥の嫌な熱が静まっていることにターニャは気づいてしまった。


「ゴミみたいな焚火しかできないのに?」


「おや、嫉妬ですか?見苦しいですよ」


「ははっ」


思わず声が漏れる。

追い詰められていたことなど忘れてしまう。

二人の会話に呆然としている党員たちだったが、


「フェルナンド枢機卿」


ミルケルがその会話に割って入る。


「聖女リリはあなたの管理下においていたのではないのですか?どうしてこの場に?」


長く伸びた前髪の間から責めるような視線がフェルナンドに刺さる。

フェルナンド枢機卿が口を開くより前にリリが口を開いた。


「ごめんなさい、フェルナンド様」


「聖女リリ‥‥」


「せっかく用意してくれたお部屋でしたが……」


お部屋、というか牢屋ではあるが。


「やはり高貴な私には狭すぎたみたいです。脱走しちゃいましたテヘペロ」


人を食ったような笑みにあざとく舌も出してみせる。


「めちゃ性格悪いじゃん」


思わずターニャが突っ込む。


「フェルナンド枢機卿、これは失態ですよ……」


ミルケルの言葉に怒気が混ざる。


「ビズレスタ枢機卿、ケイステイラー枢機卿」


ミルケルはビズレスタとケイステイラーに指示を出す。


「ヒヒ、どんな手品か知りませんが……」


「二人同時の術式は防げますかな?良き悲鳴をお聞かせください」


ビズレスタが速度重視の30センチほどの火球を二つ生みだし、ケイステイターガが五本の氷のつららが空中に展開した。


「待ちなさい、あの方は聖女なのですよ!?」


フェルナンドが止めようとする。


「少し痛めつけるだけです。問題はありません」


ミルケルは構わず指示を出した。


「やれ」


火球とつららがリリに向って飛んでいく。


「リリちゃん!」


ターニャがリリの前に出ようとする。

しかしターニャの足は氷で捉われたまま。


「問題ありません」


 そういうリリは軽く杖を振った。



 ぽふ。



 軽い音が聞こえたそして、

 火球もつららも消失した。


「は?」


 それは誰の声だっただろうか。


 疑問に答えるようにリリは口を開く。


「炎だろうと氷だろうと、あなたたち枢機卿は神のしもべ……故に聖属性となります」


「ヒ、ヒヒ、なんだそれは!?」


「そんなはずは‥‥高出力で再度展開します!」


「その人は、まだ誰も殺していません。誰にも危害を加えていません。あなたたちがどう判断したのかわかりませんが」


 リリの声が通った。


「……それが、答えです」


これ以上しゃべらせたらまずい。

そう判断したのかミルケルが指示を出す。


「フェルナンド枢機卿!あなたも攻撃参加してください!特務部隊も!」


「‥……!」


促され、フェルナンドも風の刃を周囲に浮かべた。


そして、先のものより倍以上の火球が、つららが、風の刃がリリへと迫り、四方から特務部隊の剣が二人を襲う。


「聖属性で構成された術式は」



ぱふ。



「私の前では無力となります。」


リリの前でエレメントは消失する。


聖女のローブの周りには衣のように淡い光が纏われていた。


特務部隊の剣が触れそうになると砕け散る。


「なんだそれは…!?」


思わず声が漏れた。


「魔法だけでなく、剣も弾かれるのはなぜだ……!?」


「あなたたちの持つ剣には」


リリがかぶせるように答える。


「聖属性の付与させていただきました」


(いつの間に……!?)


疑問を浮かべた次に、


「ターニャさんもいつまでもボーっとしてないでください」


厳しくリリの言葉が飛んだ。


足手まとい扱いを根に持っている―ターニャはそう思った。


足を固定された氷も解けている。


気がついたら整えられている。


どれだけ同時に術式を展開しているのか。


「さて皆さん、このまま」


それが恐ろしくも、


「私ごと敵認定しますか?」


頼もしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る