第3話 優しさの値段

 依頼は、道の途中で舞い込んできた。


「すみません……お二人、冒険者の方ですよね?」


 振り返ると、やつれた男が立っていた。 

 服は土埃にまみれ、目の下には濃い隈。


「どうしたの?」


 ターニャが気軽に応じると、男は縋るように言った。


「村で、病人が出ていて……薬も足りないし、魔物も近くに出るようになって……」


 言葉が続かない。


「でも、どうか——」


 深く頭を下げる。

 ターニャは、ほとんど間を置かずに言った。


「行こう」


 だが——


「待ってください」


 声が、それを遮る。

 リリだった。


「対価は、いくら出せますか?」


 空気が、わずかに冷える。

 男は戸惑い、言葉を探す。


「それは……本当に、少ししか……」


「構いません。ですが“ゼロ”は受けません」


 はっきりとした声音だった。

 ターニャが眉をひそめる。


「困ってるんでしょ?」


「ええ」


「なら、助けようよ」


「助けますよ」


 リリはあっさりと言った。


「ただし、“対価は必要です”」



 村に向かう道中、ターニャは黙っていられなかった。


「ねぇ、リリちゃん」


「なんですか?」


「なんでそんなに“対価”にこだわるの?」


 リリは少しだけ考えてから、答えた。


「優しさって、使い方を間違えると毒になるんですよ」


 あまりにもさらりとした言い方だった。


「無料で助けると、人はそれに慣れます」


「慣れて、何か悪いことがあるの?」


「自分で何もしなくなります」


 確信に満ちた言葉。


「“助けてもらえる”のが当たり前になると、そこで止まるんです」


 ターニャは口をつぐむ。


「だから、少しでいい。対価は必要なんです」


 村は、疲れていた。

 人の数は多くない。 

 畑は荒れ、家々もどこか傾いている。


 リリはすぐに動いた。

 病人の診察、回復、薬の調整。

 無駄のない手つきで、淡々と処置を進めていく。 

 その手際は見事だった。


 一方でターニャは、外の魔物を片付ける。


 戦闘はすぐに終わった。

 すべて、解決したはずだった。


「ありがとうございました……!」


 村人たちは深々と頭を下げる。

 ターニャは満足げに頷いた。


「気にしないで良いよ」


 だがリリは、淡々と手を差し出した。


「約束通り、対価を」


 差し出されたのは、わずかな銅貨だった。

 男は申し訳なさそうにそれを渡す。

 リリはそれを受け取り、軽く弾いた。


「これでいいんです」





 数日後。

 同じ村に、再び立つことになった。


「……また、か」


 ターニャは呟く。

 病人が増えていた。

 魔物も、また現れている。

 何も変わっていなかった。


「だから言ったんです」


 リリが静かに言う。


「一度助けるだけでは、解決にならないこともある」


 ターニャは、何も言えなかった。

 その後。

 リリは村人たちを集めた。


「役割を決めます」


「役割……?」


「薬草を採る人、見張りをする人、畑を整える人」


 一つ一つ、割り振っていく。


「できることをやってください。できないことは手伝います」


 そして最後に、こう言った。


「その分、対価はいただきます」


 数日後。


 村は、少しだけ変わっていた。

 畑には人が戻り、見張りも立っている。


 小さな変化だった。

 だが、確かに前に進んでいた。


「なるほどね……」


 ターニャは腕を組む。


「最初から役割分担をさせるわけにはいかなかったの?」


「そうですね。最初から答えを用意しても聞き入れてくれる人は少ないですから」


「再要請があることを見越してた‥‥‥?」


 くす、とほほ笑んだ。


「少し、わかったかな?」


 リリが視線を向ける。


「うん」


 頷く。


「でもね」


 視線が交差した。


「それでも、目の前で困って人がいたら、助けるよ」


 リリは、少しだけ笑った。


「ええ。それでいいと思いますよ」


 完全には、噛み合っていない。


 だが——

 どちらも、間違っていない。


 ターニャは、ふと考える。


(“無駄”じゃないやり方……か)

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