第13話 光と魔の開戦

―魔王城 前庭―


「くくく……」


 ターニャんは腕を組む。


「今日は天気が良いのう!」


「そうですね」


 ゾフィーが淡々と答える。


「絶望日和じゃ!」


(ただの快晴です)


 その時――

 空気が変わる。


「……来ましたね」


「なにがじゃ?」


 振り返ると、そこにいたのは。


「魔王ターニャん」


 白いヴェールが揺れる。


「あなたを――止めに来ました」


「おお?」


 ターニャんの目が輝く。


「なんじゃ!ついに来たか!」


「はい」


「我に絶望させられに来たのじゃな!」


「違います」


 かぶせるように否定。

 そして。


「あなたが何者か――確かめに来ました」


 淑女の礼。


「聖女リリーです」


「くくく……よい!」


 ターニャんは一歩前へ。


「この魔王ターニャんが相手してやろう!」


 言い終えると同時に――

 空気が弾けた。



―別地点―


「……来たか」


 勇者アレクが剣を抜く。


「魔王ターニャん様の腹心、ゾフィーと申します」


 優雅な一礼。


「お相手いたします」



―前庭―


「いきます」


 リリーが手を掲げる。


「セイクリッド・レイン!」


 空に光の陣……かと思われたが矢の形の光はなぜか黒くよどんでいた。 降り注ぐ無数の光弾。


「くくく……効かぬ!」


 ターニャん、腕を広げる。

 直撃し、すぐに爆煙が巻き起こった。

 ――そして。


「ぐっ……!?」


 思わず、膝をつく。


「効いてる!?」


「な、なぜじゃ……!?」


 リリーの矢は――黒い瘴気。

 勇者が呟く。


「それ、闇では?」


「……浄化の過程で不純物が出ているだけです」


 リリー、押し通す。


「ならばこちらじゃ!」


 ターニャん、指を鳴らす。


「ダークネス・ブレッシング!!」


 放たれる眩い光。

 リリーに直撃。


「っ……!」


 リリーがよろめく。


「ダメージ受けてる!?」


 ターニャんの魔法は――神々しい光。


「聖属性の祝福?」


「完全に祝福ですね」


「違うのじゃ!絶望の光じゃ!」


 ターニャん、ブレない。


 混沌とした戦場の真っただ中。

 戦いは続く。


「……ならば」


 リリーの表情が変わる。


「本来の力を――」


 魔力が歪む。

 不安定。


「セイクリッド……」


 詠唱が軋む。


「ノヴァ」


 ――放たれたのは

 “本物の聖属性”。

 ところが、


「っ……!?」


 リリー自身の体が裂ける。


「自傷!?」


 だが光はターニャんへ。

 直撃。

 そして――


「……ふぅ」


 ターニャん、回復。


「回復してる!!」


「なぜじゃ!?」


 勇者が叫ぶ。


「逆だからだろ!!」


「ならば我も……!」


 ターニャん、無理に魔力を捻じ曲げる。


「ダークネス……!」


 空間が軋む。


「グラビティ!」


 放たれる本物の闇。

 それと同時に――


「ぐっ……!?」


 ターニャん自身が崩れる。


「お前もか!!」


 だが闇はリリーへ。

 直撃。


「……あたたかい」


「回復してる!!」


「なんでじゃ!!」




―別地点―


 勇者の視線が鋭くなる。


(おかしい……属性がねじれている)


 そして。


(誰かが“整えている”)


 視線が――ゾフィーへ。


「……お前か」


「何がでしょう?」


「この世界の歪みを作ってるのは」


 その問いを受けて――

 ゾフィーは微笑む。



―前庭―


「ならば…ホーリーカッター!」


 淀んだ閃光。

 一直線に走る斬撃。


「ぬっ!?」


 ターニャんの角が――

 スパッ。

 落ちた。

 コロン。

 地面に転がる。


「……」


「……」


 間。

 勇者が拾う。


「……ん?」


 まじまじと見る。


「……これ」


 一言。


「カチューシャ?」


「なに?」


「段ボール製……?」


 思わずツッコミ。


「なんで!?」


「かわいらしいと思いまして」


「照れるのぅ」


「照れるな!!」



―別地点―


(何かがおかしい)


 勇者が剣を握る。


(この女だけが、何も驚いていない)


 ゾフィーを見る。

 その笑みは。

 すべてを知っている顔だった。


「どうしました?勇者様」


「……お前」


 アレクは踏み込まない。

 観察する。


(こいつは戦っているが――本気じゃない)


「妙だな」


「何がでしょう?」


「全部だ」


 一歩、踏み出す。


「魔王も、聖女も、そしてお前もだ」


「ふふ」


 ゾフィーは楽しそうに笑う。


「面白い視点です」


 ――視界の端。

 “角”を見た。

 さきほどの、段ボール。


(……あれを作ったのは誰だ?)


 勇者の思考が繋がる。


(魔王が自作するか?)


(いや、あの性格だ)


(やらない)


(なら――)


 視線が、ゾフィーに固定される。


「あの魔王を動かしてるのは、お前か」


 ゾフィーの微笑みが――

 ほんの僅か、深くなる。


「ご想像にお任せします」


(当たりか)


 確信に変わる。


「つまり」


 剣を構える。


「裏で糸を引いているのは――」


「……話の続きは」


 ゾフィーが一歩下がる。


「少し落ち着いてからにいたしましょう」


「逃げる気か?」


「いいえ」


 にこり。


「“整えている”のです」


「何を」


 その答えは――

 返らない。

 ゾフィーの姿が、すっと消える。


「なっ……!?」


 勇者、歯を食いしばる。


(逃げた……いや違う)


(あいつは――)


 視線を戦場へ。


(あいつが、この場を回している)


 確信に変わる。


(あいつが中心だ)


 そして――

 剣を強く握る。


「……いいだろう」


 低く呟く。


「なら――」


 前庭へと走り出す。


「全部まとめて、叩き斬る!」




―前庭―


 光と闇が乱れ飛ぶ。

 その中心へ――

 勇者が飛び込む。


「待たせたな!」


「おお!増えたのじゃ!」


「来ましたか、勇者様」


 三者、対峙。

 そして――

 空気が変わる。


「ここからが――本番です」


 誰の声でもないような声が、響いた気がした。


 ゾフィーの気配だけが、どこかにある。


 見えないまま。


 誰にも気づかれず、綻びを繋いでいる。

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